米国の通信(2001年)

米国の通信(2001年2月)

1. 停電

8年間続いたクリントン大統領から、難産の末、ブッシュ新大統領となり、ワシント ンの政官界も衣替えをし、今後変化があるのかないのかが注目されるところ。
未曾有の好景気も、NASDAQの大幅下落、ドットコム企業の不振など逆風が強くなり、 ソフトランディングは不可能という声さえ出て、悲観的な状況だが、財政の驚異的な 黒字は厳然としてあり、どう活用するかが課題とは日本にとってうらやましい限り。

すぐには振り子が大きく振れるということにもならないと想定されるが、一時の驚異 的なペースは少し静まることのは仕方ないところ。NYSEにしてもNASDAQにしても上が りすぎたのが一休み、中期的、長期的に見れば上がっているというのが、投資をすす める立場の人の言い分。

クリスマス商戦の伸び悩み、流通業界の大量レイオフなど、調整期になっているが、 ストックオプションで億万長者が続出していた方が異常。

ストックオプションのない日系企業である当社の現地採用社員ほどストックオプショ ンシンドロームが強く、説得をするたび、こちらの企業に嫉妬を感じるというのは本 音。

アメリカの場合、ブラックマンデーでバブルがはじけ、金融改革が進み、雇用調整も 行われ、それがインターネットとともに、IT革命と続いていくので、今回の調整局面 は日本が今苦しんでいる状況とはいささか異なるとみられている。

すでにはじけたので、今度の好景気は終わらない、あるいは物価上昇なき好景気が2 1世紀も続くということにはならないようだが、これでアメリカががくっとなるとい うことにはならないと考えるのが妥当。

アメリカの好景気の背景に規制緩和、自由化があったというのは誰しもが認めるとこ ろ、原則自由の社会とはいっても、通信事業をするために免許が必要だったり、いろ いろな報告を求められたりと未だに規制は存在するが、少なくとも取引にかかる総量 規制、需給調整は行わないという点では先進国。

自由貿易主義を貫徹するとは言いがたい時もあるが、規制が当然と考えられていた分 野にまで自由取引を導入したのはアメリカが最初。

その自由主義に疑義が呈されているのがカリフォルニア州の電力事情。

オープンスカイポリシーの先駆者である航空業界がかえって寡占化による価格上昇や ハブ化による離着陸回数の極端な増加による慢性的な遅延など自由化が本当に良かっ たのかと疑問視する向きもあるが、今度は電力に注目。しかも着実に後ろ向きに動き はじめている。

ニューヨークの大停電は昔話だとしても、ハリケーンや雪による停電は郊外なら時期 によっては日常茶飯事、しかも日本のように電圧が安定していないので、明かりが明 るくなったり暗くなったり、ポルターガイスト現象かと思うほど。

もっとも、そのおかげで、説明書では使ってはいけないことになっている日本の電気 製品も問題なく使っているというおまけもあるが。

今回の停電、日本の新聞にも詳しく説明が出ているので、電力自由化により、卸売り と配電との分離、配電価格の規制と、発電所の建設遅れと操業カットなどによる卸売 り会社によるイニシアティブなど、当初目的とした競争激化、参入自由化による効果 を得られるどころか逆効果になっているというのが本問題の肝腎なところ。

停電が困るのはいずこも同じだが、アメリカの場合日本の3分の1か4分の1くらい の実感で使えることもあり、電気への依存度も高く余計。電気レンジ、皿洗い機 等々。

しかも節電という考え方は皆無。ロックフェラーセンターのクリスマスツリーは誠に きれいで、うきうきとするが、電気代は相当なもの。街中にあふれる明かりは安全の もとだが、夜中でも煌々と明かりのついている無人オフィスなどなど。

安く、無限大にあるとみんなが感じているから仕方ないことだが、節電で蛍光灯を間 引きしたり、エアコンの温度を調整したことのある身にとってみれば違和感あり。

2.最適な供給

そこで問題なのは、自由化がまちがっていたのかどうか。自由化を快く思わない層に とっては、誠に好ましいこと。

規制により、電力供給に自治体や政府が介入し、供給を確保し、値段を下げるという ことは通りが良いことにはちがいない。カリフォルニア州のデービス知事はこれを無 事に乗り切らないと失脚というのも当然と考えられている。

一方、もともとふんだんに電気を使っているところへ、IT化で、電気なしのはただの 箱が家やオフィス中にあふれているのだから余計。ノートパソコンは電池があるから 良いものの、デスクトップやサーバー、ルーターはたまらない。

停電による影響が大きくなりこそすれ、小さくなりそうにはない。一時、超伝導や燃 料電池、風力、太陽発電などが話題になったが、石油を克服しなければならない自動 車業界でこそ、多少技術的、商業的に進んでいるものの、電力会社不要な時代が来そ うな感じは全くない。

電力も飛行機の座席同様、貯められない商品。つまり生もの。蓄電所でも出来れば別 だが、配電より発電、卸売りの方が力が強くなるのは当たり前。OPECが大きな力を 持っていた石油ショックの時代を思い出させる。

規制があれば大丈夫などと思ったこともなく、電力は水や空気と同じ。あって当たり 前というもの。

それがいつのまにか、石油と同じになり、文字通りのパワーゲームに巻き込まれてい たということ。

つまり、自由化そのものが悪かったのではなく、自由化をした時に考えておかなけれ ばならなかったことを忘れていただけ。

確かに忘れていたのは問題だが、だからといって規制時代に逆戻りというのはナンセ ンス。

なぜ、規制が悪いかというのは、自由化が絶対的に良いということと同じで、哲学論 争になってしまう。

問題は規制に安住してはいけないということ、工夫の必要がない業界に発展やブレー クスルーがないこと、が問題。

確かに規制時代、安定した永遠の電力供給だったかも知れないが、一方で電力会社は 地域独占、規制するためのコスト、などを考えると果たして本当に良かったのかどう か。

石油ショックから環境問題ともからみ、アメリカでさえ自動車の小型化、省エネ化が 進んだのだし、しかもその急先鋒がカリフォルニアであったことを考えても、ここで の規制は一時的なものとし、規制緩和、自由化をいかもうまくやるか、省エネ、節電 を目的としたリサイクル、環境問題など、考えるいい機会。アメリカにはその意味で リストラするべき対象がいっぱい。

停電は困るが、どう対応するかで、エネルギー問題や環境問題に大きな影響が及ぶの ではないかとも言える。石油ショックの時、今のような低燃費、低公害者などとても 想像できなかったのだから。

3.あふれるキャパシティ

日本がここで逆行し、規制は必要だとしたら、とんでもないこと。これは通信も同 じ。

自由化をすすめ、試行錯誤をしながら、活力をどう出していくかが、21世紀の最初 の数年でイニシアティブをとれるかどうかということ。

いろいろな意味でブレークスルーをしなければならない時は、管理下ではなく、自由 な考え、発想が必要。

時には行き過ぎがあったり、戻ることがあっても、傾向を止めることはできない。し かもそれは利用する立場にたたなければいけないということ。

供給側の都合で考えても結局はついてこない。e-コマースなどその典型。

政府や大企業がある意味でパトロンとなり、自由に使わせることが必要。

考えてみれば、不便だったり、問題が起こったりした時に、次のステップが出てい る。必要は発明の母。

リモートアクセスで56キロビット、早くて感動したのもつかの間、オフィスでのL ANからのダウンロードでさえ、待つという感じ。テレビなら、リモコンのボタンを 押すだけで変わるチャンネルがそうはいかない。

テキストから図形、絵や写真、あっという間に動画と音声、音楽、いろいろなことが できるようになるたび、パソコンの名目上のスペックが上がっても、ソフトの重さに 引っ張られ、ネットとつながず使っても、高速化を実感するのは容易ではない。

光ファイバー化し、自由に使えることになれば、即悩みが解消というほど簡単ではな さそうだが、電話線に依存していることを考えると驚異的になるはず。もっとも、す ぐにそれが当たり前となり、感謝の気持ちがなくなるということが問題。

不便だと感じるものは必ず、何か解決策が出てくるはず。光ファイバー、高速化、広 帯域化である程度可能になるはず。あとは周辺の機器や、流通システム、金融システ ムなどが主役を助ける。あくまでも通信はインフラ。主役に場所や舞台を提供するの が仕事。電力と全く同じ。

しかし、インフラが主役のニーズに合わないと前進は難しい。

発電の必要な電力と異なり、技術革新がそのまま産業構造に影響を与える。参入が難 しいと言われていた通信事業への参入が考えるよりはるかに容易だったのは、ここ数 年の動きで証明された。問題は継続できるかということ。

市場を寡占し、利潤を得る。そのために規制があり、需給調整の名のもとに参入を困 難にすることのできた時代はすでに過去のもの。

あとはどう使いたいかということ、供給側でなく、使う方がイニシアティブを持つ。

すでに供給過剰ではと言われている日米間、欧米間でもまだまだ海底ケーブルの増設 計画があり、しかも技術革新により、ますます高速通信が可能となり、そこにキャリ アとしてついていくのは簡単ではない。

航空業界のように、一旦完全自由化し、再度まとまることで、価格決定権を持つとい うことも数年前には考えられたが、インターネット、モバイルも含め、さらに異業種 も入って、参入。そこでイニシアティブを持ちつづけるのはメガキャリアであっても 大変。

いろいろな意味でカリフォルニア州の停電は重要。でも、いかに前に進むかが課題。 それは通信も同じ。

 

米国の通信(2001年3月)

1. 出張の必需品

出張することが多い。東京への出張は空家にしている自分のアパート泊まりだから、 普通の人とちがう荷物の中身になるが、アメリカ国内の出張となると荷物が多くな る。
日本以外の国では、たいていの場合、ホテルに寝巻きと歯みがきセット、スリッパが ないから、少なくとも寝巻きと歯みがきセットは持つことになる。

アメリカの航空業界、ホテル業界は当然のことながら出張で持っている。加えれば、 レンタカー、カバン業界など裾野は広い。

国が大きいこともあり、飛行機というのが意外に時間がかかるので、日帰りで行ける ところは限られる。新幹線と短距離国内線だけの日本とは大きく異なる点。

航空業界も寡占のせいで、直行便が少なくなり、ハブ空港での乗り換え、慢性的な遅 延など、日帰り出張はリスクが大きいので、その結果ホテルに宿泊することになる。

会議や見本市、研修会などで、全米からある都市の人が集中したりすることも多く、 出張市場がアメリカの活性化に寄与しているかのように見える。

もちろん、企業が健全で順調に活動しているからこそ出張するのであり、趣味でして いるわけではないが、いかに安く上げるかという個人旅行と異なり、正規料金で支払 うケースの多い、出張は魅力的。

みんな大きな荷物を抱え、空港の中をあちらこちらに異動。日本と異なるのは、いわ ゆるサムソナイト型のハードスーツケースがほとんどないこと。それと大きな荷物で も極力預けないようにしていること。

荷物がなくなったり、別の空港に行ってしまうということは結構日常茶飯事。しかも 捜索するのが大変。延々とコールセンターでオペレーターが出るのを待ったり、ぞん ざいな応対で不愉快な思いをすることに耐える必要がある。

だから、預けない。機内での荷物収納と取り出しに時間がかかる。もちろん航空会社 は預けるようにすすめているが、なくなる危険を考えると極力手持ちにしたいのが人 情。

そこに加わったのがパソコン。会社支給のかも知れないが、4キロくらいありそうな オールインワンのラップトップを持ち込み、機内で仕事をしている人の多いこと。

パソコンは本体だけでなく、結構付属品が多い。電源や予備電池、CDROMドライブや 小型ラップトップ用のポートリプリケーターなどを持つとそれだけでかなりかさば り、重さもすごくなる。

最近、電池の貸し出しや機内でも電源をとれるアダプターが装備されている機材もあ るが、まだまだ一般的とは言えない。

しかも、自分の経験というか失敗になるが、電池を間違えるとそのままダウンで何を しても起動せず入院ということになるので注意も必要。

この手のものがあらたな出張の必需品になりつつある。オフィスにいる時だけが仕事 ではなく、出張の移動時も、夜間、休日同様、仕事時間化しているということ。

2. 不便から便利へ

パソコンがなく、電話もなかなか通じなかったころの小説を読むと、今の出張とずい ぶんとちがうものだと感心する。

確かに便利になったが、一方で一時も休めなくなっているのも事実。数年前、飛行機 の中に予備電池を大量に持ち込み、ニューヨークから東京までほとんど全行程仕事を しているアメリカ人がいて驚いたものだが、今はすでに普通になっている。

ということで、この流れが仕方ないなら、より快適になるようにしたいというのが本 音。

まずは電源。予備電池を持たなくてすむならどれほど楽なことか。ニューヨークワシ ントン間のAMTRK(米国旅客鉄道公社)のメトロライナーという特急にはコンセント があり、通常の電源が使える。そのために飛行機でなく、列車を利用するという人も 多い。

同じように、ユナイテッド航空のビジネスクラスなど、すでに専用コードで電源をと れるようになっている機材もあるので、普及してほしいが、航空会社によって規格が バラバラということにはぜひしないようにしてほしい。

次にはインターネット接続環境。ホテルでそのために宿泊費より高い電話料金を支 払ったこともある。とにかく、ひどいところは市内通話であっても1ドル以上とると ころもあり、困りもの。

アメリカは電話が固定料金制でインターネット接続に向いていると言っても、家庭で のこと。ホテルの電話料金はホテルで決めるのでとんでもなく高い。

市外の接続ポイントから入ろうとすると悲惨。市外料金や国際通話はオペレーター扱 い料金プラス手数料となり、通話時分数によっては家から割引プログラムでかけるの の100倍以上。

となると、宿泊費より高くなるのも仕方がないということになる。もちろん、最近は LAN接続のできる設備を持っているホテルも登場しているが、どこでもというように はなっていない。

もっとも、たいがいのホテルでデータポートがあるからアメリカは便利。日本ではど こでもという具合にはなっていない。

つまり、高速接続が可能になれば、イライラしなくてすむ分ストレスは確実に小さく なるはず。

それとパソコンそのもの。何もしていないのに、ソフトにバグがあったりすると、フ リーズしてどうにもならない。へたにいじって、アウトということもありうるのでし ろうとには頭の痛いところ。

しかも電池で起動していると、画面がきちんと出てくるのに時間がかかり、しかもア クションごとの時間も余計にかかる。

過去から比べればぜいたくなほど早くなってもイライラする。パソコン自体の速度は どんどん速くなっているが、ソフト自体も重くなっているので実感するという具合に はいかない。

情報家電と言われてひさしいが、テレビ、ステレオ、ビデオのどれをとっても、パソ コンよりずっと早く、チャンネルが切り替わり、操作が単純で固まらない。

理屈から言えば、全く別のものだが、しろうとからみれば、パソコンっていうのはテ レビの親戚みたいにみえるから、どうしても評価が厳しく、期待が大きくなる。値段 も高い。

便利になることによって幸せかというと、いつでもどこでもインターネットに高速接 続できるということは世界中がオフィスになってしまうと言うことにもなりかねな い。

でも、ここまで来た以上、かならず不便なものは便利になるように工夫や発明、開発 がされることになり、とどまるところを知らないということになるはず。

それだけ便利になるなら、出張など必要ないじゃないかということも言われるが、そ うはいかないのが現実。OA化がペーパーレスにならず、紙の需要が増加したのと同 様、出張して顔をあわせるということがますます意味を持ってくると思う。

3. あわせワザ

芸術の振興のカゲにパトロンがあったように、何か進化する時にはそのエンジンにな るようなことがあるのが普通。

出張という切り口で情報化をみてみると将来の可能性が見えてくるような気がする。

パソコンだけが進化してもだめ、いろいろなインフラ、仕組み、社会そのものが平行 して変化しなければ、全体としてのネクストステップにはいかないかも知れない。

ドットコムブームの終焉と言われているが、それでもブームの中からいろいろな業態 や市場が生まれたのは確か。

航空会社と旅行代理店の手数料戦争を生んだEチケットもその一つ。代理店を通さな くても、顧客が直接電話で航空会社からチケットを買い、それを空港で受け取るとい うもの。当然、インターネットでの販売に進化する。

これらの業態や市場は切磋琢磨を繰り返しながら、改善された形で定着することにな るはず。ドットコム企業なら、とかIT銘柄ならといったり、構想だけで投資家が殺 到するなどということはドリームだったり、バブルだったかも知れないが、確実に 変っている部分に目を向ければ、本物が出てきていることも確か。

これまで通信市場は、国営だったり、独占だったことにもよるが、利用者がリードし て世の中が変るというより、技術開発によりこんなことができる、あんなことができ るということによって変る。

ところがインターネット関連ビジネスは利用者や利用者のグループが主役。キャリア がそれを追いかけているという構図。

ここへきて資本力のあるキャリアがインターネット市場を包含する形になっているか のように見えるが、iモ-ドのように周辺にビジネスが自己増殖するというのが現 状。

したがって、インフラに近い部分ではある程度統合され、技術的に進化し、品質が向 上していくはずだが、他方、新規参入のバリアは限りなく低くなり、かつ周辺の市場 は無限大になっていると言える。

インフラにすぎなかった通信市場が好むと好まざるとにかかわらず、その裾野を極端 に広げ、これまで全く関係のない部分までも取り込んで、拡大しているというのが否 定できない事実。

それをこれまでの常識とか、規制の範囲で捕らえようとすると当然無理が生ずる。

世界中、行政の基本は縦割りだから、横通ししてみようとするところはまだ少ない が、そういう変革期に強いのが、アメリカの原則自由の発想。つまり、決めていない ことは禁止の日本と、自由のアメリカの差。

大資本による横暴、横やり、競争阻害は許されないことだし、むしろアメリカの独禁 法の方が厳しい。それでも、自由な発想そのものに規制は存在しない。トライするこ とが日本より楽。

産業間、業種間の組み合わせが自由。しかもそこにはハード、ソフト、仕組み、イン フラ等々いろいろな要素が入り込んでくる。

不便だと感じることはビジネスチャンス。それを一分野だけでとらえず、総合的にあ わせワザでとらえることが必要。不便が便利になる過程で、いたるところに小さな産 業革命が起こり、摩擦も生ずることになるが、それを許容し、社会の中でどう昇華さ せていくかが課題。

ここらで発想を変え、原則自由というスタンスで、ほとんど全国に張りめぐらされた 光ファイバーとiモ-ドを驚異的に普及させた日本がこのあわせワザを使って改革す れば不可能はないはず。景気の先行きが不透明な今こそ、自己規制せず、不便を一気 に便利にすべきまたとないチャンス。

 

米国の通信(2001年4月)

1. 禁酒禁煙

禁酒法時代のアメリカ、アンタッチャブルの世界。隠れて飲むアルコールを味わった人も多かったと言われている。 隠れて飲むアルコール、堂々と飲むよりずっとおいしかったと想像される。かつて禁酒の中近東に行った時、ひそかに飲んだアルコール、普段そんなに飲まないものにとっても美味だった経験あり。

もちろん、今は禁酒時代ではない。日本人よりアルコールに強い、分解酵素を持つ人が多いらしいので街で酩酊している酔っ払いはいないが、よく飲んでいる。

今、きびしいのはタバコ。州によって多少の違いはあるが、堂々とどこでも紫煙をくゆらすことは不可能。飛行機、列車は全部禁煙。全車両禁煙の成田エクスプレスでもデッキには灰皿があり、そこからの煙が自由に舞っているということはなく、とにかく、飛行機同様完全禁煙。

レストランもニューヨークやカリフォルニアはすべてだめ、唯一、25席以下の小さな店、バーコーナー、個室だけがニューヨークでは認められている。

オフィスも同様。外へ換気扇で煙が出せる部屋だけが可能。喫煙コーナー、換気扇では違法。

ビルの外にある灰皿の周りでタバコを吸う姿が普通。雪の日も雨の日も、暑い日、寒い日、どんな日でも必ず数人が集まっている。

そこでのおしゃべりがきっかけになって商談が進むということもあるらしいが、タバコを飲まないものからも愛煙家が気の毒だという気さえする。

タバコ自体も高い。一箱700円以上になるというイギリスほどではないが、マンハッタンの街中では500円前後。郊外のガソリンスタンドでの安売りでも400円くらいというところ。タバコ会社が再三の巨額な賠償金を支払うためには仕方ないことだが、税金をのんでいると言われている日本とくらべても高い。

海外に進出して、タバコを拡販しようとするのは必至。さらにアメリカのタバコ会社は食品会社を傘下に収めるなどして、業容を拡大しているが、アメリカで安いタバコを大量に売ることは不可能。

自由な国だが、結構こういった規制はきびしい。禁酒法時代との共通性があるのかも知れない。

アルコールの方も自由というわけではない。まず、屋外でのむのは禁止。映画などで、茶色の袋に入れてのもシーンがあったのをみたことがあるが、それはビールであっても屋外、道路や公共の場でのむことができないということ。

宗教上の理由で、日曜日の午前中はアルコールを売らないとか、成人であることを証明するID提示を酒屋で求められるということもある。若く見える日本人のおじさんが未成年にみられ、IDの提示を求められるという笑い話もあちこちにあるらしい。

駐車違反の取締りがきびしく、例えば、夜10時から駐車禁止という道で、10時15分くらいから取締まりをし、レッカー車で持っていくという場面をみると潔い感じがする。

それと同じように、規則で禁止するとその効力は結構大きく、内緒で禁を破るということが意外に少ないのかも知れない。

時に、禁酒法時代のように、実行上できないことをしようとすることもあり、そうなるとブラックマーケットが反映するし、少なくなったとは言え、ドラッグマーケットはおそらく絶滅したわけではないので、すべて遵法ということではないのはもちろんだが、アルコール、タバコの害や実態はすべて公表されており、その事実にしたがって規則が決められ、結構守っているということ。

ここまで来るのに、長い道のりがあったはずだが、その結果がこの通り。これもアメリカの姿。

2. バブルははじけたか

秩序を作ること、守ることと、規制を緩和することが同時に行われ、並存していくところにアメリカのおもしろさがあるような気がする。 全体の動きは規制を少なくし、自由主義に任せるというもの。これは民主党政権下でも共和党政権下でも程度の差こそあれ、規制緩和の動きは同じはず。

一方で、あらたな秩序は必要最小限のもの、規制緩和という基本的なトレンドの中でも残ったもの、新たに作られたもの。したがって、守ってもらわないと意味がないということか。

1990年代のアメリカの活況は、規制緩和、その結果、必然的にリストラをせざるを得なかった既存業種からあらたな人材が新事業分野に流動し、そこで大きな流れとなった高度情報化の動きの中で、大中小いろいろな形でのビジネスが生まれたということ。しかも、小さな芽が大きなものに化けることもしばしば。マイクロソフトが夢ではないということも事実だった。

大騒ぎをしたY2Kのあと、まるでタイムズスクエア出行われたカウントダウンのお祭りのあとのように、株価が上がらなくなった。

株価は不安定なまま上下しているが、かつての勢いはない。じりじりと下がっている。

過熱ぎみだったオフィス需要も大分落ち着き、下がり始めていていると言われ、上がりつづけたマンハッタンのアパートもようやくひと段落。

一方、長いトレンドで言えば、上がりつづけているダウ平均がここ数年異常に上昇し、それがもとの曲線に戻っているとも考えられる。

ストックオプションに裏付けられた活発な消費や住宅消費、億万長者は夢だったのかも知れない。まさにバブル。

もっとも、この時期に出来上がったいろいろなものは確実に根付いている。社会も経済も、政治さえも高度情報化による構造転換の洗礼を受けることになった。

日本のバブルで残ったものは何か、と考えると残念ながら、土地神話の崩壊、大企業の破綻、などなど、構造転換を促す結果とはなったが、あっと驚く変化ということにはならず、苦しい状況を抜け出せず、株価は底知らずかと思うくらいに下がっている。

高度情報化、IT化の波の中でも、携帯電話ブローカーの株価がIT銘柄として異常な株価になるなど、ムードに流され、あっという間にしぼんでしまった。

かつてバブルの時期、土地を持っているだけで、倉庫会社の株価もどんどん上昇していったのも記憶に新しいが、今度も同じ。マザースや日本版NASDAQも、スタート早々、なんだ投機かという雰囲気になってしまったのは残念。

チャレンジ主義のアメリカ、失敗しても復活が容易ということで、シリコンバレーに始まり、各地に高度情報化のメッカができ、至るところで、新しい事業が始まった。

経営的には失敗したところも多く、吸収されたり、消えていったりしたが、復活を一度はしたアップル、未だにMACファンは多く、画面の動き方、お絵かきなどはいまだウインドウズをしのいでいると言われる。そのほかにもネットスケープなど、一時期を風靡し、世の中を変えた企業も多い。

確かにバブルでなかったとは言えないし、多くの企業でもレイオフも行われているが、どっこいこの時期の成果は着実にあり、世界をリードしている状況は同じ。過熱をさます一休みかも知れない。

バブルと言っても、残ったものが多いというのが正直、素直な印象。

3. 通信不況

もっとも、このまま景気がどんどん悪くなり、街にはホームレスがあふれ、犯罪が増えるということも想像できないわけではない。兆候がないわけではないが、弾力的な労働市場、多様な賃金水準、慢性的な労働力不足、あらたな分野へのチャレンジなど、決して悲観的なことばかりではない。 通信事業者にも変化あり。資金を市場から調達し、世界中に回線をひき、企業の買収をするということで、ここ数年で業界地図がすっかり変ったが、このような動きがこれからもどんどん続くとは考えられない。

もともと、着実にサービスを提供してきたキャリアより、金融など異業種から参入したキャリアの方が元気で、しかも労働力も吸収した時期、ベル系のキャリアは新興勢力に吸収されたUSWestや、低賃金のままでストックオプションもない労働者がストライキをしたBell Atlantic(今はGTEと合併し、Verizon)など複雑な気持ちになった。

それが今は大変化。株価の上昇をベースにしていたビジネスモデルが成り立たなくなり、実ビジネスをどう展開するかが鍵となった。

USWestを合併したQwestも、今や旧来のキャリアであるローカルアクセス、地域事業があるから成り立っているという皮肉な状態になっているとも言われている。

確かに、他業種とも入り乱れ、規制緩和の波にのってどんどんと活性化した状況はなくなったが、その結果あらわれたのが、ブロードバンド化への着実な動きのベースとなる回線の大量敷設、インターネットの急激な普及など。

パソコンが会社や家庭にあるのは普通。回線につながって日常使われているのも当たり前。一時のブームではなく、ビジネス、教育、家庭にしっかりと腰をおろした。

期待されたEビジネスは儲からない、ベンチャーの挫折など、暗いニュースばかりだが、これも裏に回ってみれば、企業間のネット取引、プラットホームの整備、セキュリティ手段の多様化など、着実に動いている。しかも挫折したネット通販なども、つぶれた会社の陰で、そのものはますます拡大し、飛行機の切符もEチケット化するなど、インターネットでできることがどんどん増えている。

かつての不況はすべてにわたって元気がない状態であったが、今回はちがう。通信不況は通信事業を投資対象としてみた時の一休み。通信事業はその範囲を広げ、インターネットと一緒になって、社会での存在感を増やした。

おそらく、いくつかの通信事業者は今後、成り立たなくなり、売られたり、廃業することになりかも知れないが、彼らの保有する大量の回線や設備はそのまま、ブロードバンド化に使われ、大量情報時代の礎となるはず。バブルの崩壊とか、通信不況と言って悲観的に眺め、アメリカも日本と同じであるとみていると、勘違いと言うことになりかねない。これが実感。気をつけてみていないと乗り遅れる。

 

米国の通信(2001年5月)

1. 不況の実感

いよいよ、長い間のバブル、好景気が終焉の時を迎え、アメリカに不況が来るのでは というのが一般の論調。
株価、特にNASDAQの下落が象徴的。確かに一時期の半分以下となってしまうと、ス トックオプション組の皮算用ははずれ、大損する人も続出するはず。

日本でもアメリカでも、右肩上がりの景気は心地よく、みんながイケイケドンドン、 元気もでる。何かに浮かれているようで、これで良いのかなと一瞬は思っても気持ち の良さの中で長続きしない。

儲かっている人はもちろん、うらやましがった人も、日本人みんながバブルの雰囲気 を実感していたのはついこの間のよう。

ロスト10年と言われているように、右肩下がりの時期が長く続き、その間、事態は ますます悪化したから、余計、華やかだったころが最近のことに感じるのかも知れな い。

一方、アメリカは1990年代以降景気が上昇し、インフレなき高度成長を実現し、 バブル崩壊後の日本を尻目に一人勝ち、億万長者も続々誕生し、株の高騰で多く人々 も恩恵に預かったはず。

そのまま、21世紀を迎え、半永久に続くのではないかとさえ言われたくらい。

401Kや株式投信を通じ、日本より株式が身近。儲かった人が多かったのは事実。 去年の今ごろから、そろそろ不安定になり、一気に急降下。DOW平均は中長期的にみ れば、急激に上がったのが調整されているとも言えるが、NASDAQは様子が違い。突 如、下落というのが実態。

こうなると、バブル崩壊、不況の大合唱。心理的にも不安になり、投資意欲は減退 し、買い控えが起こる。

さすがのグリーンスパン議長も、金利引下げの効果が思ったほどなく、何度も繰り返 すが効かないと言う状況になっている。

一時は花形として隆盛を極めた企業が次々に失速。減収減益、資金不足、倒産という 具合。

確かに、この冬のバーゲンはいつもより早く始まり、割引率も大きく、在庫を持ちた くないという感じが強く、しかもその割に店に殺到ということもなく、淡々としてい た。75%引きの効果むなしく、小売りは不振。

UNIQLOはまだ進出していないが、マンハッタン、フィフスアベニューの目抜きにでき たH&Mというスエーデンの安売りショップの人気は上々。入場制限があったくらい。

一方で、日本と同じに、高級ブティックにかげりという感じはなく、マジソンアベ ニュー沿いのブランドショップも新装開店が多く、賑わっていて、こんな値段のもの が良く売れるなと感心するくらい。

高級なものを購買する層は、一部ストックオプション成金などバブル長者が消えたか も知れないが、きちんと存在し、一方で中級品を購入していた層が安くてお徳用な商 品に移行しているということ。つまり、日本と同じ。

ホームレスが街に目立つとか、再びあの不況時代に戻るかのように、街がスラム化し てくるということは今のところない。むしろ、ハーレムにクリントン事務所ができる など、開発も進み、街は引き続き変っている。

レストランも相変わらず盛況。予約のとれないところは高飛車に断られるのも同じ。 今のところ、生活しているだけで、不況は実感できない。もっとも、病魔と同じで、 自覚症状が出てきたら、末期症状なのかも知れない。

ロスト10年の日本でさえ、街で自覚するのは不可能なくらい賑わっているから。

2. 祭りのあと

この10年、アメリカでの変化の大きさは目をみはる。蒸気機関、自動車、家電の登 場と同じかそれ以上。

26年前、当時の電電公社に入社した時はインフラそのもの会社。何をしている会社 か、正式名称は何か、知らない人も多かった。

1990年代の主役が情報通信産業。時代の変化のまん中で戸惑っているうちに21 世紀。

マルチメディア、とかINSとか言っていたころは、身近というより夢物語。現実にな るとは思えなかったのが、パソコンの登場、インターネットの普及で身近なものに。 不況で独創的なドットコム会社が倒産すると、ドットコム不況到来ということで片付 けられそうだが、その会社がしていたということは着実に残り、生き延びているケー スが多い。

これは自動車業界と同じ。草創期からずっと残っている会社は少なく、多くの会社が 淘汰されたが、自動車そのものは着実に普及し、新規参入の会社や企業統合により、 産業としての地歩を築いた。

ドットコム企業、ベンチャー企業の多くが成り立たなくっている。確かに夢とか、事 業計画を売って、お金を集め、事業が黒字になる前にお金が必要だったら、再び新株 を発行して資金を調達するというスキームは通らなくなっている。

もともと、実態の事業に着目せず、将来性に着目し、大赤字であっても資金が集まる という仕組みが不自然だったことは確か。

一方で、挑戦者にとっては誠に良いシステム。誰もがチャンスをつかめる。仮にスポ ンサーがなく、自己資金がなくても、アイディアを具体化できる。

シリコンバレーを始めとする起業家のメッカ。ベンチャーキャピタルやそれをベース にしたファンドの成功。それぞれが組み合わされ、好景気に結びついた。

しかも失敗を容認する社会。仮に失敗しても、再度挑戦できる。ダメという烙印どこ ろか、経験の方が尊重されるということ、仕事を変るジョブホッピングが当たり前と いう土壌もこれらの動きを支えていた。

どんなにうまく行っている社会でも、成功と失敗はある。儲けることのできた人もで きなかった人もいる。これはバブルの時も同じ。

急ブレーキがかかったのは確か。21世紀まで続くと思われたインフレなき経済成 長、日本より少ない失業率などが、一旦停車を余儀なくされた。

祭りを楽しんだ人たちが、一転して財布の紐を締めたということもある。入って来な いお金を待っていても仕方ないということ。

一方で、社会は変化した。10年前には考えられなかったことがあちこちに起こって いる。かつて、会社に設置されていたメインフレームの大型コンピューターと同じか それ以上の能力を持つパソコンがデスクの上、家庭の中に入り、しかも能力は日に日 に良くなっている。

コンピューターは機械。動かすにはプログラムが必要ということで、かつては一生懸 命勉強して組んだプログラムが、今ではパソコンに組み込まれたソフトだけで大概の ことが間に合い。過剰なくらい。

携帯電話、携帯端末、ナビゲーションシステムなどなど、コンピューターは至るとこ ろで身近なものに。

航空券やホテルの予約、カラー印刷など、かつてはプロの仕事だったのが、パソコン で簡単にできるようになっている。旅行代理店や印刷会社は独自の付加価値なしに は、しろうとに対抗できなくなっている。

これが祭りのあと。これまでの常識で、好不況を考えるのでなく、着実に変化した社 会、一見好況のように見える不況。手をつないでみんなが幸せになるのでなく、勝者 と敗者が明確に存在する社会。個人の責任が重くなったということかも知れない。

3. 情報通信事業の変質

個人主義の国アメリカにとってみれば当たり前にことがネットを通じ、グローバルに 影響が及んでいると言うことかも知れない。

日常消費する野菜の中国からの輸入を制限するセーフガード。消費者は反対、生産者 は死活問題。どちらに組するか、冷静に理解を求められるか。

海外の資本でよみがえったロンドンの街。清潔で安全になった。が、英国資本で生き 残っているのはわずか。

アメリカの好景気も、膨大な貿易赤字のもと、日常目にする製品で、メイドインUSA はたまにしかない。それでも税収のため、財政は黒字。減税が議論のまとに。

政府や会社に依存しない年金や老後。勝者だけが享受できる仕組みを401Kや株式 投信で、庶民へとカバレッジを広げ、自助努力を援助。

つまり、グローバル化、競争社会というのは、自分で自分を守るということ。

情報通信産業のように、かつて政府が保有し、規制で守られた業界でも同じ。資本主 義の論理で優勝劣敗。

もっとも自由だったアメリカでも、1996年の通信法改正で事業区分の撤廃という 方向が示された途端、動きが変化し、業界地図が様変わり。

何のバックグラウンドもなかった会社が事業計画を売ってお金を集め、ケーブルを購 入し、一気にキャリアに。それもわずか2、3年。

一方で歴史を持つ会社が変化に追随できず、打つ手打つ手が不調で苦しむとか、いろ いろなことが起こる。

アメリカ以外でも同様。WTO合意。民営化・自由化の名の元、各国政府も国営事業を 売ってお金を得るという美酒にめがけて規制緩和。

加えて、アメリカに始まった無線免許の競売。何でも売れるということで感心した が、落札価格が高すぎたため事業が成り立たなかったり、ヨーロッパのように落札資 金のために財務が逼迫し、会社自体が危機の瀕するという皮肉な結果となった。

着実にコモディティ化している情報通信キャリア事業がかつての独占、寡占利潤を享 受することはあり得ないにしても、すべてが成り立たなくなるとも考えにくい。

インフラの上を流れるIP信号の量は今後膨大になるはず。そこには国境はない。グ ローバルに生き残れるかどうかが情報通信産業の課題。

指定席があるのではと思ったのは誤解。今のところ、AT&TもBTも指定席の切符を持て ていない。情報通信産業の変質を体感し、グローバルな視野で事業を運営すること、 時には母国を忘れることが生き残るためには必要。やっと、キャリアも自動車や家電 などの先駆者と同じ土俵にたたざるを得なくなったということ。競争本番はこれか ら。

 

米国の通信(2001年6月)

1. ポジティブシンキング

ニューヨークはこわいというのが常識。殺人事件がいたるところで起こり、街は落書 きだらけ、昼日中歩くのも危険。というと、大方の人は納得する。
実際にはここ数年大幅に変化し、安全になっている。街の落書きは相変わらずだが、 それでも一時の落書きの中に街があるという状態ではなく、最近住宅地にまで浸透し つつある日本と比べても新しい落書きがそんなに多いわけではない。

ただ、そのままになっている古いビルが廃墟となり、割れたガラス、さびた鉄骨など をみると、まだまだという気もする。

もっとも、日本と異なり、そのままに放置しておくだけの土地の余裕があるというこ とも言える。日本なら、すぐに再開発をするか、整地して駐車場にするか、とにかく 土地の有効活用が優先されるが、アメリカでは土地代は安く、そこまでの必要はな い。

むしろ、放置したままの建物が増えるとますます土地の値段も下がり、スパイラル現 象のようになってしまう。

土地が安くなれば、そこに住む人も変ってくるので、余計、雑然とし、いわゆるスラ ムができるのも確か。そういう地区がある程度の規模の街には必ず存在する。

だから、アメリカ、特にニューヨークのような大都市のイメージはすべてが廃墟寸前 みたいなことになってしまう。

現実はそんなことはなく、最低と言われた時期でさえ、安全な地帯もあり、多くの人 は平和に過ごしていた。

旅行者は事情を知らないので、君子危うきに近寄らずということで、オーバーに危険 を強調することになるのは当たり前。こちらへ来た早々、散歩でこういう所に行った と アメリカ人に話したら、よく無事に帰ってきたと感心され、絶対に行かないと聞 き、ほっと胸をなでおろした経験がある。

そういう意味では現地に住んでいるアメリカ人は慎重で、臆病なくらい。危険だと言 われ、事実犯罪率の多い地域がはっきりしているのでそこには絶対近寄らないという のが常識。

通りをひとつ隔てるとがらっと雰囲気が違うというのはびっくりする。建物、歩いて いる人の様子、これが同じ街かと思うくらい。

だからと言って、すべてが危険ではない。可能性の問題として、危険度は高く、近寄 らない方が良いとは言うものの、すべてが犯罪者ではない。

否定的にみてしまうと何もできなくなる。旅行者のように知らないで紛れ込んだ結 果、とんでもないことに巻き込まれることになるので、臆病になるのは当たり前。

長く住んでいる人が大丈夫と油断して犯罪にあうというケースも多く、日本語放送の TVJapanでも注意を呼びかけている。

が、昼日中でも街を歩けないということになると仕事も生活もできないことになる。 そこで必要なのはポジティブシンキング。とは言ってもなんとかなるという楽天的な 考えではなく。リスクは自分でとるという前提での考え方。

つまり、危険だからすべてを否定するというのではなく、危険を理解し、回避できる 範囲で、これならできる、ここまでは大丈夫、という考え方を持つこと。

地下鉄には全く危険で乗れないということはないが、一方で深夜に一人で誰もいない ホームで待つとか、中で居眠りをしたりしたら、安全は保証されない。

街でも同様。ボーっとした金持ちと思われている日本人が狙われるのは当然。犯罪も リスクの少ないということが必須だから、どうしても狙いにくいところにはアタック しない。

重要なのポジティブシンキングと楽観的ということとが違うということ。

2. 安全は自分で守る

自らの欠点や問題を把握していないと自分は守れない。自分のできることがわかって いればできるのがポジティブシンキング。

とにかく、こちらで気がついたのはボーっとした人が少ないこと。だから、日本人が 街角で、地図を眺めたり、写真をとったりして無防備なのをみると大丈夫かなと思っ てしまう。

考え方は、これならできる、これなら大丈夫と確認を自分でしていくこと。

これはまさにポジティブシンキングの発想。つまり、できないことを列挙するのでは なく、できることをみつけていく。

わからないことが一つでもあると落胆するというのではなく、わかることが一つでも あれば、それを喜べば、考え方が自然と前向きになる。

つまり、常に自分はわからないという状態にあると認識すること。だから危険に対 し、敏感にならなけばいけないということになる。

だからこそ、ポジティブシンキングの発想をとることができる。

もっとも、他方で日本とアメリカの違いが規制に関する考え方。

日本は原則規制、例外自由。つまり、やって良いことを列挙するのが法律であり、行 政。アメリカは逆に原則自由、例外規制。書いていないことは自由。

これも考え方の相違。規制がないと何をするのかわからないから、原則規制にすると いうのが日本。アメリカは逆。

もちろん、日本人はだめで、アメリカ人は良いという考え方ではないが、基本的な相 違であることは事実。

日本からのニュースをみていると政府の責任とか、規制していないので問題というこ とが多い。アメリカでも当然、政府の役割というものがあり、政府の責任という発想 もあるが、少し異なる。

原則自由の考え方の裏には、自由とは何をしても許されるということではなく、自由 ということも伴う責任はとれるという暗黙の了解があるからに他ならない。

暑い時、寒い時に、自分を守るにはどうすれば良いかをTVでやっているがまさにその 発想。

自分で自分を守れない人にとって、確かにニューヨークはこわいところ。アメリカの 発想では、子供を放置することは犯罪。守ることのできないものは規制や周囲が守る ことになる。

が、守れる能力のある人がそうしないということに対しては、自分で守ることを求め る。

日本のように駅で、注意喚起放送がしょっちゅう流されているのと異なり、アメリカ では放って置かれるのが普通だった。が、最近、地下鉄や空港で、降りる人がすむま で待てとか、荷物に注意しろなどとテープでの放送を繰り返しているところをみる と、やや様子が変り、過保護になりつつあるのかも知れないが。

ポジティブシンキング、原則自由の考え方をとれるためには、もう一つ、敗者復活が 可能なことも必要な要素。

倒産するということにはきびしく、自助努力をもとめ、金融危機の際のように、経営 者に対し、厳しく罰するが、一方でそれで埋もれてしまうということはない。チャレ ンジしたという事実はきちんと評価されることになる。

インターネット、ドットコム産業の隆盛のためにはこの考え方が何より必要だった。

現在、バブルがはじけたようになり、倒産が相次いでいるが、残るのは楽しかった遊 興の時期ではなく、着実に変化した時代とそれを支えるあらたなビジネスの定着。

自分のことは自分で守るという人にとって、ニューヨークの危険度は大幅に低下する はず。そういう意味では結構安全。

守り方はそんなに難しくない。ちょっと周囲に気をつけ、ボーっとしないこと。

3. 廃墟になるか

情報通信産業も、株価の下落、資金調達の困難化の中で、きびしい時代を迎えてい る。

ポジティブシンキングの発想のもと、積極的に展開し、多数発生した新ビジネスも、 今は資金源を断たれ、青息吐息。

ドットコム型の事業だけでなく、CLEC、ILECと言われる新規参入型の情報通信事業に も大きな影響を及ぼし、チャプター11というアメリカ型民事再生法のお世話になる 会社が続出。

生き残っている会社も、本来のチャレンジ型事業分野ではなく、旧来のキャリアを合 併したおかげで日銭が入り、それでなんとかなっているというところもあり、皮肉な 結果。

そこで短絡的に、ドットコム企業の終焉、バブルの崩壊、ITバブルの幻想などと言う とおもしろくなる。センセーショナルな見出しが躍り、アメリカはおしまい、また危 険な時代を迎えるというと、なるほどと納得。

これでは、ニューヨークは犯罪の街という理解と同じようになってしまう。

全体が見えなくなってしまい、部分部分で判断することとなる。

確かに多くの会社が成り立たなくなったため、積極的に投資をした結果である回線や 設備が多く存在する。

そういった物件のリストも数多くあり、検索をするのも簡単ではないくらいらしい。 現在の状況では、それらがそのまま朽ち果て、廃墟になることも考えられないわけで はない。大都市にみられる廃墟のビルをみると容易に想像できる。

アメリカ大陸の土地に埋めれたケーブルや郊外のハイテク産業団地に建設された立派 に見えるビルや設備がそのまま、無駄になるのかも知れない。

大変不遜な言い方をすれば、キャリアにとって、そのまま廃墟となり、実用に供しな ければ、供給過剰状態が解消され、大胆に下落している市場価格が下げ止まり、サプ ライサイドがイニシアティブを持てればと考えたくもなる。

が、誰でもが、チャンスをつかめるのが、アメリカの特徴。しかも定着したIT文化の 中で、ブロードバンド化は必至。そんな中で数少ない成長分野と言われる一角を担う キャリア事業が航空業界のように寡占化されることはあり得ない。

原則自由、敗者復活、ポジティブシンキングのアメリカ。一部に廃墟化するものが出 てきたとしても、生存競争を勝ち抜く中で、大きな遺産はすぐに活用され、さらに次 のステップへと移行すると考えられる。

そこでの差別化は、付加価値と効率性。多様なニーズに対応しつつ、生産性をいかに 向上させるかが課題。廃墟のままになることはなく、姿が変っても不死鳥のように飛 び立つはず。それがポジティブシンキングのビジネスチャンス。

ニューヨークのタクシーのドアは自動ではなく、自分で開け閉めする必要があること を忘れてはいけない。頼れるのは自分だけ。

 

米国の通信(2001年7月)

1. 露店

ニューヨークの街、露店は景色の一部であり、風物詩、名物。
もっとも有名なのはホットドックの屋台。ひとつ1ドルから2ドルくらい。ゆでた ソーセージをパンにはさみ、キャベツの酢漬け、ザワークラウトやチリをのせ、から しとケチャップをかけて街角で食べると映画みたいな感じになる。完全に街の景色と 一体。

食べもの屋は、朝なら、パンやドーナッツ、コーヒーなどを売っている店、サラリー マンからビルの工事作業員など多くの人に愛され、これも茶色い紙袋を持って歩く と、これもニューヨーカーみたい。

朝から夜まで出ているのが果物屋。野菜もあるがほとんどが果物、カットしたフルー ツも置いてあり、おいしそうに見える。実際には当たり外れあり。当たれば安くてお 得。

昼前にパンの屋台とシシケバブの屋台、ホットドックの屋台が交替。ミッドタウンの 駐車場から屋台が出てきたこともあり、確かに車にはちがいない。あるいはバンの後 ろにつなげ、郊外からマンハッタンに出勤。

シシケバブの屋台は鉄板焼き。そこではシシケバブだけでなく、いろいろな調理が可 能。まるで日本の焼き鳥屋やラーメン屋野菜炒めのようないいいおい。もっとも結構 量もあるので要注意。

もうひとつ香ばしくて、いいにおいはローストピーナッツ。砂糖で豆をコーティング して煎る。ピーナッツの他にもあり、甘い香りがあたりに充満。

この他、チャイナタウンではベビーカステラ、これもいいにおい。並んで買わなけれ ばならない店もあり。おかゆの店、料理の屋台、野菜だけを売る店と種類も豊富。

夏の名物はソフトクリーム。これは屋台というより、バンで商売。大手の会社、ミス ターソフティーの車がほとんど。この車が街角に止まるようになると春から夏。もっ とも、戻りで冬みたいになると一旦は消える。不思議なのは夏だけのこの商売。冬は この会社、何をしているのか。

これらの屋台。お祭りでもなんでもなく。生活の一部。だから、ダークスーツを着て いるビジネスマンも、ブランド物のスーツを着ているキャリアウーマンも、主婦も誰 でもが利用。夏、渋い紳士が紺のスーツを着て、ソフトクリームをなめる姿は日本で は絶対にみられないもの。

夜の銀座の名物だった、焼餅、焼き大福屋、ラーメン屋などが条例で禁止され、姿を 消したのと同様、こちらでも衛生面で問題があるということ、美観を損ねるというこ とで、ジリアーニ市長がミッドタウンのビジネス、ショッピング街から追放というこ とを数年前に発表。さすがに支持はなかったようでその後沙汰止み。屋台が消えるこ とはなかった。

確かにシシケバブ屋など、肉を扱うことにもなるので、やや不安なところもあるが、 しっかり加熱もされているので大丈夫と思っているようで、今でも昼食時には行列が できるほど。

食べもの以外でおもしろいのは、マッサージ。中国の人たちが、マッサージ用の椅子 を外におき、街頭で商売。あとは似顔絵。これもいっぱいいるが、ほとんどが中国 人。うまいのには感心。

写真や絵を売っている店、サングラスを売っている店、ミニカーを売っている店な ど、いろいろな屋台がある。朝から出ているミニカーの屋台、通勤時に買う人が果た しているのか、毎日横目でみながら不思議に思う。

2. フェイクと誇大広告

成田空港でのポスター。偽ブランド商品の持ち込みはできません。というもの。

偽ブランドと言うと、思い起こすのはアジア。

ところがニューヨークの街角、ここでも偽ブランド商品、コピー商品がいっぱい。 中でもすごいのがハンドバッグ。特に良くできているようなのが、プラダやケイトス ペードなど皮でなく、マイクロファイバーでできたもの。10ドルと言われている が、よほどのプロでないと見分けるのは難しそう。もっとも、ルイヴィトンなどはな んとなくわかる感じがする。

時計も定番。昼にみると違うというのがはっきりとわかるが、夜だとこんなものかと 思ってしまいそう。クオーツのロレックス。本物の機械式より正確なのは皮肉。さす がに精密機械の時計を作るのはハンドバッグより難しそう。

もっと驚くのはビデオ、CD。特に映画、上映が始まったと同時に露店に登場。5ドル とか10ドル。早いのがとりえ。

実際には映画館にビデオを持ち込んだ盗撮。当たり前だが、まっすぐには映らず、音 声もきちんと入らず、咳払いやポップコーンを食べるような音が入るという臨場感。 どうなっているのかというので確かめた結果がこれ。どうぞご注意を。もっとも、き ちんとなったものもあるのは不思議。オールド作品などはまさにコピーだから却って 安心。でも買ってはいけないのが決まり。

一番妙なのがパッケージ。ポスターからとるのかも知れないが、市販品としか思えな い雰囲気。だまされても仕方ない。

アメリカは著作権先進国。意匠やデザインなど知的所有権についてもきびしいという のが先入観。ところが街角ではびっくりの連続。当然、ラルフローレンのポロシャツ やセーター、ノースフェイスのバッグなども屋台で売っているし、それにみんながた かっている光景もあちこちに。

警察も時折りは取り締まるので、あわててしまって逃げるシーンが繰り広げられる。 が、普段は警官と談笑していたりして、共存関係にあるみたい。

まとめて車でやってきて、いろいろな場所にちらばって店を広げるので、間違いなく 胴元がいるはず、どうして捕まえないのかそれは不思議。

もうひとつ、ここで気がつくのが、誇大広告。比較広告が認められているので、日本 より刺激の強い広告やコマーシャルフィルムがあるのは当たり前だが、それにしても 自分がナンバーワンだという広告が目立つ。

100%保証みたいなのはあちこちにあり、消費者を惑わせるのは事欠かない。一方 で商品比較テストはきちんと行われ、コンシューマーリポートとして優劣を比較して いる。そこでダメと評価されると売上げに響くので会社も必死。

日本の暮らしの手帳などよりおおがかりの団体。影響力は大きい。

だから、消費者が賢いから、フェイクや誇大広告も野放しで良いということにはなら ないはず。観光客ばかりでなく、地元の人も通勤の途上などで、コピー商品に見入っ ているのをみるとそんなこともないみたい。

日本人は本音と建前とがあり、わかりにくいと言われるが、アメリカでも同じ。知的 財産権保護と街角のコピー商品とは両立しないはず。一種の本音と建前の使い分け。 JDパワーでベストカストマーサービスと認定された航空会社でも、トラブルが生じた 時の対応は最低。カウンターの職員は飛行機の遅れは自分の責任ということではない ので他人事。調べようともしない。

日本の会社、JALやANAではそんなことは絶対にない。単に謝れば良いというものでは ないが、それでも相談にのってくれれば打開策もあるはず。どうしてそんな会社の サービスが一番ということになるかミステリー。

3. 100%品質保証

アメリカ人は広告は広告。実際は実際と割り切って考えている様子。だから、実際に はそんなことは無理だと思ってもあまり騒ぎ立てはしない。

通信事業でも同じ。100%品質保証という会社もあるし、99.99999%とほ ぼ100%を保証している会社も多い。

したがって、商談中に他社では保証してくれるのにという話が良く出る。当社もそん なことなら、いっそ大丈夫と言ってしまえという議論も出るが、そこは生真面目なと ころがあり、最後は実態にあわせて対応する。あるいは少し欲張って大丈夫と言った あと、その水準を満たすために苦労するという結果になる。

もともと、どこかで故障やトラブルが起こるので、100%品質保証というのが不可 能であるというのが常識。

100%品質保証の会社が、トラブルの時、電話がつながらず、結果としてお客様が 怒り狂い、そこの会社とキャンセルし、当社にご用命をいただいたこともあり、現実 は大分違う。

100%品質保証は気合のようなもので、品質が良いということくらいに考えれば腹 も立たないし、会社側ももし、それで怒られたら賠償すれば良いと考えているふしが 強い。

つまり、会社側もお客様側も現実を理解しているので、逆にこのような誇大広告が成 り立つという皮肉なことになる。

それぞれの国で商売をしていたころは問題にならなかったことが、二つ、あるいは複 数の国で商売をしようとするとこういう課題にぶつかることになる。

サービス品質保証契約(SLA)は商売にとって極めて重要な要素。しかも契約書その ものも日系企業より米国企業の方が神経質、重大視し、双方が合意するまでに時間が かかる。

つまり、基本的には性悪説にたって交渉をするということ。超大企業の場合、こちら でも自分の思い通りになるのが当たり前なので、契約書のフォーマットも自社のもの 以外は許さないとか、天動説そのものだが、こちらもビジネス。先方の土俵にのりな がら、自分の意志を押し通すことができれば本物。慣れないと面食らうことばかり。

性善説で、何かをしてくれるだろうとか、相手に期待していても何にも起こらない。 きちんと意思を伝えない限り、何も始まらない。したがって、100%品質保証とい う宣伝文句を無条件に信じ、何も準備をしていなければ、その方が問題だと言われる ことになる。

本音と建前にみえることも、中身は単純。本音は本音。建前は建前。実質的なところ でビジネスが進む。

だからと言って、米国企業と同じでは勝負にならないのは当たり前。日系企業として の付加価値が何より重要。本当に100%品質保証に近づける努力と実績が勝算を持 てるかどうかのポイント。

やっとここまでたどり着いたという感じ。あとはどう生かすかということ。

 

米国の通信(2001年8月)

1. 街が空く

日本のお盆ほどではないが、夏のマンハッタンは様子を変える。
もともと、観光客の多い街が、冬のクリスマスシーズン同様、ますます観光客風が多 く見られるようになる。

夏休みのシーズンは7月4日の独立記念日から9月初めのレーバーデーまでと言われ ているが、学校の夏休みが6月中から始まるということもあり、さらに子供のいない 人が学校の始まる9月以降に休暇をとったりと、結構長い期間夏休みシーズンがあ る。

ヨーロッパのような長いバカンスではないが、日本のようにお盆前後に集中するとい うこともなく、それぞれに個性のある休暇をとっている感じがする。

豊かそうな休暇を感じるのは、ニューヨークの東、ロングアイランドに続く、ロング アイランドエクスプレスウエイの土曜日朝や金曜の午後。この高速道路はマンハッタ ンとクイーンズとを結ぶミッドタウントンネルからJFK空港に向かう時に必ず通る 道なので、タクシーやバスで走ったこともあると思うが、周囲がゴージャスな感じに なるのは大分先、1時間ちかく走ってから。

ご多分にもれず、夏のシーズンの土曜午前中には大渋滞もあるが、日本にくらべれば 大分まし。

そこに見られるのはポルシェやベンツのスポーツカーに乗ったビジネスマン。ロング アイランドの高級住宅地の別荘などにすむ家族のもとへ急ぐ姿。

家族は優雅でも、ウイークデーに仕事しなければならないのは、いささか気の毒だ が、ロングアイランドの景勝地はほとんど、個人の住宅のプライベートビーチ、普通 の人は入れない。

そもそも、道からは玄関など遠い先、まるで映画のようなので、ビーチを占領されて も妙に納得。もっとも、広いアメリカ、それでも海岸でいもの子を洗うようになるこ とはまれ。せいぜい、古くからの観光地、マンハッタンから地下鉄30分にあるブ ルックリンのコニーアイランドくらい。

それでも、街の商店ではBack To Schoolということで、ウエアや文房 具などのセールだから、子供ものんびりという訳にはいかないのかも知れないが、 3ヶ月にもなる夏休み、うらやましい限り。

街でめっきりと少なくなるのがスーツ姿のビジネスマン。その数、ミッドタウンのど 真ん中でも、10%はおろか、1%もいないくらい。

もともと、インベストメンバンクや法律事務所など、エスタブリッシュメントと言わ れているところでも、若手を雇用するために、カジュアルウエアを容認しているか ら、スーツではないと言っても、仕事をしていないということではないが。

それにくらべて、暑そうなのが日本。大手町や日比谷あたりではダークスーツの群 れ。一昔前は半そでのシャツがもっといたように思うが、今はまれ。

湿気と暑さで、汗びっしょり、エアコンや車のおかげで、街そのものがヒートアイラ ンド化していているから余計。難行苦行。

タオルのハンカチと扇子が必需品。電車の中、街角至るところで見られる光景。東南 アジアの国々から戻っても暑さを感じるくらいの湿度と温度、亜熱帯だと割り切って スーツをやめてほしいのは、出張時に汗で悩んだ経験から。

マンハッタンの街、きびしい太陽の光の中、ダークスーツばっかりだったらと思う と、考えただけで暑苦しくなってしまう。

秋になると、夏だけのカジュアルの会社も多いので、カジュアルフライデーが定着し た金曜日を除き、ニューヨークでもスーツ姿が増える。

夏の間、観光客が増えるので、休暇をとる人が多くても、街を歩く人数そのものはか えって多いくらいだが、白っぽいシャツが増え、ダークスーツが少ないと、街が空い てみえるのが不思議。

2. なんでもあり

カジュアルウエアは日本と同じ。さすがにTシャツに短パンというのはどこの会社で も禁止。襟のあるシャツ、チノパンツというのが制服。

白いベルト、横じまのポロシャツという一時代前のゴルフウエアが主流だったかつて の日本のカジュアルウエアとは異なるが、カラーのボタンダウンシャツにチノパンツ というのが定番。ブルックスブラザースやポロの製品がもっとも有名。

個性を尊重するのがアメリカと言っても、ビジネスの服装は没個性。もっとも、アメ リカで普及したファッションだとわかるのは、アメリカ人の体型、体格によく似合う こと、老若男女、これは同じ。

デパートや、スーパー、通販などではカジュアルウエア用に、組み合わせたワード ローブを売っており、制服になるのも当たり前。

スーツも定番ものが多く、日本の方がバラエティに富んでいるような気がする。新作 というより、流行に左右されないものが主流。そういうものはなかなかバーゲンに登 場しないので、高くつく場合もあるが、安売りの店も多く、選択の余地はまあまあ。

日本にくらべて便利なのが、お直し。日本ではせいぜいズボンのすそ上げだけがサー ビスだが、もっと広範囲に修整をしてくれる。ウエストを伸ばす、上着を縮めるとい うのも可能。

サイズも豊富だが、さらに直すのが可能なので、大概の場合、なんとか合う。

木目細かな対応が得意ではないアメリカで、スーツに限って、弾力的な対応になるの が不思議。多民族が集まるので、器用な中国人やイタリア人などが縫製をしているら しく、出来上がりもまあまあ。

こちらで合うものがあるかどうか、心配だったが、このシステムなら、なんとか合わ せることが可能。サイズも木目細かいので、ある程度はカバー可能。ただし、在庫が そろっているかどうかという問題があり、なかなか全サイズあるということはまれ。

ただし、広域的な在庫管理はされているケースが多く、コンピューターで照会をする と、別の店、あるいは倉庫でストックがあれば、検索は瞬時に可能。

靴も同じ。特に日本と異なり、足の長さだけでなく、幅を計測して合わせるので、ゆ とりも持て、合わせやすい。革製品が安いこともあり、買いやすいという欠点はある が。

ということで、なんでもあり、体格の小さい日本人でも結構合うものが多いし、横幅 が大きくても対応可能。標準サイズばかりではない。

ビジネスマンのカジュアルウエア、それもオフィスに行く時はあまり個性を感じさせ ない格好で、まるで制服のようだが、それでもダークスーツよりはバリエーションは 多く、色も華やか。

オフィスを出ると、これはバラバラ。好きな格好というのはあるが、それでも街を観 察すると多種多様。なんでもあり。

3. カスタムメ-ド

多様なニーズに対応すると言っても、ゼロからのオーダーメ-ドではない。型紙から おこしていては、時間もコストもかかり、現実的ではないケースが多い。

そこで、修整とか、付加価値をつけるということになる。途中までは定型で、仕上げ を個々に対応するということが効率良くニーズに応える近道。

ITブームが終わったわけでは決してないが、今年と去年のサミットでのITの扱い の違いをみると、すでにトレンディではないように思えるが、むしろ、そろそろ本格 的に浸透しつつあるという気がする。

ドットコム企業の失速、景気の不振、株価の低迷など、新産業にとって、苦いことば かりが続いているのは事実で、関連の業界も不振を極めているが、一方で、普通の会 社がシステム更改、いわばIT化を本格的に志向し始めている。

ここ数年で、インターネットの普及、パソコンの職場への導入、業務のシステム化に よる見直しが確実に進行し、ITブームの浮かれ方とはやや趣を異にしながら、地道 に浸透していた。

特に、コストカットをどうするかという時、大幅に下がった回線価格、性能が向上し たパソコン、Webサイトを活用したビジネスへの転換など、進化を享受しようとす ると、旧来のシステムを更改しようということになる。

インターネットなど、ほんの数年前までは、会社の中では、必要悪、あれば良いとい う程度だったのが、ここのところ、急激に実用化し、Webを使ったビジネスを内外 で展開し、eメールを使いこなすことが必須となった。

皮肉なことにeメールの普及により、ベストエフォート型、つまり、100%通信を ギャランティーしないインターネットの特質と裏腹に、eメールが届かないことを許 さない、という風に変化している。IT部門の責任が重くなったとも言える。

これまでも超大企業はすべてオーダーメードのシステムを自社で構築し、キャリアや ベンダーを活用していたが、中小規模の企業は既製品を組み合わせて使うしか方法が なかったとも言える。

確かに、これまでは製品に利用者が合わせるという要素が強く。規制があったことも あり、要望通りにするのは難しいという状態であったが、徐々に変化しつつある。

変化の主役はIP化、インターネットの技術と、回線価格の下落。これまで特別に規 模の大きい企業が膨大なコストをかけなければ可能ではなかったシステムが容易に可 能になったこと。

まず、プライベートネットワークの基礎となるフレームリレー、ATM、専用線の価 格が大幅に安くなり、使いやすくなったこと、さらにコロケーションにより、設備を アウトソーシングすることで、企業のニーズに合ったシステムを構築することが可能 となった。

しかも、基盤となる設備での標準化が進み、フルターンキーで提供される商品やメン テナンスを使うことにより、簡単に音声、データ等を統合して伝送し、処理すること が可能となり、定型化することで、むしろ、選択の余地が広がったと言える。

そこで、必要なのがカスタムメードの考え方。型を押し付けるのではなく、型はある ものの、それをきちんと修整し、ニーズに限りなく合わせるというもの。

その結果、コストは下がり、さらに重要なのは、定型的なものも使うことにより、メ ンテナンスコストが抑制されるということ。

大量生産型、つまりサプライサイドの都合で売る時代から、途中まで効率的に生産 し、途中からは個々のニーズに応じ対応する。あるいは音声もデータもすべて統合し た回線にのせ、さらにコロケーションで一括アウトソーシングしながら、個々のニー ズに最適解を出すということ。事実上のカスタムメード。

身近ながら、奥が深く、期待が持てそうなビジネスチャンス、ものにできるかどうか が鍵。

 

米国の通信(2001年9月)

1. 値段が高い

オープンスカイポリシーによって米国の航空業界が自由化されてから、かれこれ20 年。一時、たくさんの新規参入があったものの、結局は寡占化。
サウスウエスト航空が価格の安さを武器に大手の一角を占め、アメリカを代表するエ アラインだったパンアメリカン航空が倒産し、弱肉強食だから、仕方ないとはいうも のの、自由化のすべて良かったということではない。

確かに航空業界が規制を受けていたころにくらべ、新規参入は自由になり、割引価格 も多様化したのは事実。

一定の制限はあるものの、賢く買えば、安いチケットは買える。

日本の航空事業も規制緩和で、あらたな会社が参入し、価格も弾力的なものとなり、 特割とか、早割とかいう名前の割引料金も多彩、すぐにはわからないくらい。

ところが一方で、競争の少ない路線の料金は逆に値上げ。新幹線もなく、複数社が参 入していない、いわゆるシングルトラックで、得をするバリエーションは少ない。

それでも、日本では差額はそこそこのところ。同じような距離、同じような時間で、 二倍とか三倍とかになる例は少ない。

ところが、アメリカではとんでもないことがある。ニューヨークから一時間のワシン トンやボストン。シャトル便ということで、二社が30分おきに運行しているが、と もに車以外に競争がないということもあり、強気の価格設定。距離的には、東京名古 屋間程度で、往復400ドルあまり。しかもビジネス客が多いので、平日に割引料金 を探すことは困難。週末は日曜日の午後早くまでなら往復200ドル弱。これも需給 のバランス。

アメリカ鉄道公社(Amtrak)がこの区間、がんばって新幹線なみの列車を走ら せ始めたが、まだまだ。ということで、いかにも高い値段。

ところが、これはましなほう。ニューヨークから2時間弱のテキサスのダラス、実際 には1時間ちょっとで着くが、この定価が往復2000ドル。さらにびっくりしたの が、ニューヨークとカナダのモントリオール、これは1時間ちょっとで往復2440 ドル。今のレートだと、30万円近く。

これはエコノミークラスのノーマル料金。ディスカウントで、土曜を滞在すると、1 0分の1とはいかないけれど、8割引くらいにはなる。普段でも買い方によると90 0ドル弱にはなる。

が、東京行きのディスカウントチケットが500ドル強から1000ドルの間、季節 によって変化。しかも13時間かかる。

ほんの近くのカナダはアメリカの州みたいなもの、車で行くと400マイル、つまり 600キロあるので、ワシントンやボストンの二倍弱にはなるが、この区間、カナダ 航空の寡占状態、価格は自由に決められる。

高い路線の特徴は、寡占か独占ということ。経済原理そのまま。

しかも、複数社が入っているケースでも大手の価格はほぼ同じ。つまり、談合ですべ て高くなっているという感じ。

確かに定価で買わなくても、工夫すればディスカウント料金で購入することは可能で あるが、さて、すぐ行こうということになるとどうしてもノーマル。出張者に支えら れていたということで、高姿勢を維持できたのかもしれない。

最近、ユナイテッド航空が土曜滞在という制限をとったディスカウント料金を設定す るということを発表したのは、出張者が減少し、航空各社の業績にかげりが出てきた 証拠。

2. 需給バランス

需要と供給のバランスを敏感に価格に反映させるのがアメリカ風。合併を繰り返し、 ほぼ地域独占になった途端に価格を上げるという例は身近にある。

Duane Readeというニューヨークのドラッグストアを独占しつつある店な ど良い例。どんどん街の薬屋が合併されて看板を変え、街じゅうにあふれたら、なん となく割引率が少なくなり、寡占を感じる。

航空業界も同じ、広いアメリカの中で、しかも空港が至るところにあり、各社がそれ ぞれハブと言われる空港を決め、そこを中心にきめ細かな路線網を持つことになる と、勢い、路線単位でいうと競争が難しくなってしまい、独占や寡占ということにな る。

また、広い国ながら、空港が多く、路線が細かいこと、便数を増やすため、飛行機が 小さく、大陸横断に300人乗りのボーイング767があるほか、国内線にはジャン ボも777もなく、主流は200人乗り以下の737や古いMD81など。とにかく 小さい。

小さい飛行機が、頻繁に飛び、しかも需要の大きいいところに集中するので、今度は インフラの貧弱なところにしわ寄せが生じる。

良い例がニューヨークのラガーディア空港。水辺にある小さな空港。滑走路が交差 し、ゲートが多いことを除けば、日本でもローカル空港なみの大きさ。

近距離国内線や、カナダ行きで一日中離着陸ラッシュ。

便数規制がなく、飛んできた飛行機は着陸させるという信じられない仕組みのため、 規制緩和をすれば、当然どんどん増える。

増えてしまった結果、欠陥が露呈したのが去年の夏。ついに閾値を越え、離着陸の シーケンス、ゲートへのアプローチなどがコントロール不能になり、ゲートを離れて から離陸するまでに2時間も3時間も待ったり、着陸してゲートに近づけないため、 1時間も待機したり、その結果、さらに遅れるという悪循環。そこに悪天候などの要 素が加わると収拾不可能。

ついにたまりかねて採用したのが、抽選による間引き。各社何便かづつを計画的に運 休させ、それで調整。

もっとも、小さな飛行機を頻繁に飛ばしている路線など、乗客数に応じ、調整できる ので、大きな混乱もなく、実施。最近比較的、ましになっている。

これをジャンボにすれば、便数が減り、まして共同運航にすれば、空港事情は改善す るはず。

が、そうなると規制強化に逆戻り。現在の状況はとんでもない料金を設定する代わり に、ディスカウント料金を多彩にして対応し、需給に応じ、弾力的にするというも の。

あちら立てればこちら立たず。規制緩和、自由化に損得はつきもの。

しかも、日本と異なるのは、価格の上方弾力性。ホテルでもマクドナルドでも、需給 に応じ、価格が変化。狭いマンハッタンの中でも、マクドナルドのハンバーガーの値 段はまちまち。ビッグマックでも大分違う。

ホテルも同様。標準料金を中心に、価格が上下し、極端な場合、最低と最高で数倍違 うことさえある。

わかりやすい例だと、お正月の値段。今はどうか知らないが、喫茶店に入るとお正月 や頼みもしないのにケーキつきで通常の倍といったことと同じ。

それがもっと激しく、はっきりと、さらに日常的に発生するというのがアメリカ。

でも、政府で規制してきちんとやれという話にはならない。あくまでも自由主義経済 の原則。

3. プレイヤーが減る

通信自由化も同じ危険を持つ。とりわけ、最近の状況で、事業者数が減少すると、同 じように寡占化が進み、価格が高くなる危険がある。

すでに出ている例がDSL。当初は日本より安い料金でスタートし、日本は遅れてい ると批判されたが、最近では値上げ傾向にあり、さらに日本の低価格化が進めば、逆 転どころかアメリカは高いということにもなりうる。

アメリカ企業だけが参入ということにならない国際区間はこういうことにはなりにく い。これも航空業界と同じ。

もっとも、大西洋間のように距離的にはニューヨークからアジア向けに半分強しかな いにもかかわらず、ノーマル料金はえらく高く、ディスカウントは逆に安いというの も需給を反映していると言える。

が、参入事業者がグローバルに多様化すると、寡占にはなりにくく、勢い価格決定が 需要を反映することになる。

談合やカルテルを独占禁止法で規制しても、もっとも効果的なのは海外からの参入。 価格体系のパラダイムを一気に変えることも可能。

通信事業と航空事業とに類似点が多いということは一般的なこととして言えるが、参 入という点では大分異なると考えられる。

確かに規制緩和で出現した多くの事業者が倒産したり、事業を断念したり、合併され たりして、一旦増加したプレイヤーが減ったりということはあるが、次々とあらたな 競争形態が出現する。

固定網と移動網。インターネット、IPでの代替。もとは同じでもリセールや付加価 値通信による形態。放送との融合など、いろいろな形での参入が考えられ、実際にそ うなっている。

ここのところが肝腎。規制緩和の波を受けての新規参入、その後に続く、淘汰や統 合。寡占の恐れという点では航空業界と通信業界は同じだが、飛行機に変わる高速移 動手段がある程度の時間までの高速鉄道や車を除き、出現しそうにないのとは大きく 異なる。

確かに規制緩和からの流れの中で、プレイヤー数が減るのは確実だが、視野を広げて みると、そこにはすでにちがった形での参入がすぐそこまできているのに気づくは ず。

しかも、日本は規制が強く、参入しにくいというイメージが強いこと、潜在的な経済 力も大きいとみられていることから、魅力的な市場に見え、内外からの参入に多く期 待できる。

一方、アメリカは自由ゆえに、寡占になってしまうと、そこが極端に供給サイドでの 対応をしない限り、皮肉なことに、参入する魅力は小さいと言える。

競争の夢破れ、あとに残るは寡占。というのは今のアメリカの航空業界。通信業界で も同じことが起こるかというと、一部にそう感じることもあるが、一般には選択の余 地が大きく広がることにより、需要サイドの力が強くなり、当分新旧入り乱れ、さら に内外入り乱れたきびしい生存競争が続きそう。

もっとも、生存競争に勝ち抜き、しかも多角的なサービスでニーズに合えば、繁栄へ の道が近づいたと言えるかも知れない。

日米ともに、これからの競争は興味津々。デスマッチかも知れないし、生き残ったも のはすべて勝ちかも知れない。

 

米国の通信(2001年10月)

1. 9月11日

ミッドタウンの南端、40丁目にあるビルの41階にあるオフィスの窓から、異変に 気がついたのは9時5分前。あとで聞くと、ほぼ真上を最初の飛行機が飛んでいった らしいのですが、全く気がつかず。最初からすべてをみてしまった人はあまりの恐怖 にしばし、どうしようもなかったとのこと。
急いでテレビをつけ、途端に日本から、オフィス内で、外からと電話が鳴りひびき、 話をしている間にとんでもないことが次々に起こり、信じられないことに。

オフィスにいる時は、即座に必要な対応と会社をどうするか、等々あせって考えてい ただけに、あまり感じなかった恐怖が、ビルからの避難命令により、外に出て、足を 地上につけた途端、周りがあまりにもいつもと異なっていることに気づき、愕然とし て、胸がドキドキし始めた。

その日は、マンハッタンのオフィスのほとんど、さらに通信設備のある建物も、 ニューヨーク、対岸のニュージャージーで、避難命令が出たため、会社を閉め、自宅 に数人で移動し、100人いる社員の安否確認。

最初はつながった電話も、ふくそうにより、つながりにくくなったことに加え、ダウ ンタウンの電話局にも影響が及んだこと、ワールドトレードセンターの屋上に携帯電 話のアンテナがたっていたことなどで、一般の電話、携帯電話ともにかかりにくい状 態。

朝9時というのは、お客様との打ち合わせをする時間でもあり、ワールドトレードセ ンターの中にもお客様がいるため、誰かが巻き込まれたのではないか、通勤途上でト ラブルがあったのではないか、あるいは自宅へ戻る途中、何かあったのではないかな ど、心配はつのるばかりなのに、電話はつながらない。

社員が出張や旅行していることもあるので、ニューヨーク、ニュージャージー、ワシ ントンだけでなく、西海岸や中部のオフィスの無事も、となると簡単にはすまず、結 局、確認が出来た上、なんとか、翌日自宅待機にすると連絡ができたのは、日付が翌 日になってから。

それも、マンハッタンから市外電話がつながらなくなったため、夜になってから大回 りし、普段の倍以上の時間をかけ、ニュージャージーの自宅に戻った総務部長と手分 けして電話。元気な声を聞けた時は、ほっと一息。

そのうちに、いろいろな場面がテレビ放映され、しかも最初は10機以上の飛行機が 確認できないということ、シカゴも襲われたとか、まだ来るだとか、いろいろな情報 が乱れ飛んだこともあり、心配をするより、何がどうなっているかが、わからない で、右往左往していただけ。

一方、煙をあがった場所がちょうど、知っているお客様が入居している階あたりだっ たので、それも心配。残念ながら事実。

ワシントンでもということで、連絡をとるがこれもなかなか取れず、心配ばかり。

近所に住む社員の家族も始め、連絡がとれていたのが、途中でとれなくなり、不安が 募る。結果的に無事避難でき、声が聞けたのは午後になってから。

南側、ダウンタウンでは黒い煙が上がり、大勢の人が北へ向かって歩き、教会や店で は飲み物や食べ物を出し、灰にまみれた人、くたびれた顔、表情は暗く、しかも途中 軍関係の施設に曲がる道には小銃を持った兵士。

まさに、朝ののんびりした天気の良い、平和な街は一転、爆撃を受けた戒厳令の街の よう。

行方不明の方の多さを考えると、まさにそのもの。行方不明リストにある知り合いの 笑顔、ワールドトレードセンターそのもの、自分の目でみた街、今でも脳裏にはっき りと刻まれ、忙しさの中で忘れることもあるが、ふっと、オフィスから南方をみると あざやかな記憶に。

2. アメリカ

当日から翌日と、事態が判明するにつけ、アメリカの愛国心が前面に出て、テレビも America AttackというタイトルからAmerica War というタイトルに変わり、街に は国旗と、行方不明者を探す家族、知人の張った写真入りのポスターが氾濫し、これ も景色が変わった一因。

日が過ぎるにつれ、街に増えたのは国旗と国旗の模様のついたTシャツ、セーター、 トレーナーを着た人、胸にも国旗のバッジや、赤、青、白の三色のリボンをつけた 人。

大統領の支持率も圧倒的に高くなり、まさに臨戦体制。予備役の招集、費用の支出 等、次々とワシントンでの対策が出され、今にも始まるという感じ。

街は日本の一部の新聞や週刊誌に書いてあるのとは異なり、ものもあり、平穏に戻 り、地下鉄もバスもタクシーも走っているのが、テレビでは戦争状態のような報道。

感心したのは、アメリカ国民の目に見える愛国心。言わなければ伝わらない国なの で、確かに表現するというのが大事なこと。

それでも、あふれるような、アメリカ、アメリカの大合唱の中で戸惑いを覚えたのも 確か。

いつもは、きちんと日付を守らず、工事をしてくれない地元の通信事業者Verizon も、復興第一で、証券取引所や公的機関の回線復旧、被災し、通信が途絶した企業の 復旧など、いつになく効率的に、復興への熱意が感じられたのにはびっくり。

他の会社、特にワールドコムMCIも同じ。おどろくことばかり。こちらも復旧に向 け、熱意を持って対応したので、その熱意が届いたという面もゼロではないし、ス タッフはしっかり仕事をしたが、それ以上にニューヨークを、アメリカを復活させる という意思の強さを実感。

ニューヨーク市長として、最終コーナーに入っているジュリアーニ市長が先頭に立っ て、指示をする姿は市民、国民の信頼を得るのに十分。出遅れたブッシュ大統領も、 露出を多くし、激励、鼓舞し、アメリカの連帯感に訴えた。

多民族国家、行方不明者の国籍も多様なニューヨーク、アメリカだからこそ、民族で はなく、自分たちが作り、守る国という観点で、一体感を持っている。

いろいろな料理、宗教、文化を許容することで、逆に全体の国としての連帯、自由を 守るという国是を共有するという、いわば暮らしの知恵。

人種差別が皆無かというと、そんなことはありえないし、日本人も差別されている面 を否定できないが、その経験に基づき、うまくやる方法が、自由を守ることの連帯。 個々の多様性を守るため、全体では一致。

加えて、勇敢な消防士、警察官にも被害者が多く、さらに十分すぎるほどに集まった ボランティアなど、愛国心、団結心がますます強まる。

そういう意味で、今、もっともアメリカ人、アメリカという国を自他ともに、肌で感 じられる。

3. 通信の確保

当社の交換機は立ち入り禁止区域ではなかったため、停電もなく、バックボーン回線 には障害がなかった。が、アクセス回線やダウンタウンを通って外へ出る回線に障害 が起こった。

今回のことは想定外のことなので、準備をすれば防げるということにはならない面も 大きいが、この経験をどう生かしていくかが肝腎。

当社はエンドエンドサービスとして、お客様のアクセス回線部分まで、当社で責任を 持って対応することにしているが、他の国際・長距離通信事業者は、自社の交換機ま でが無事なら、アクセスには責任がないと割り切ったため、回復は早かった。

お客様にとっては、国際・長距離か、アクセスかはあまり関係なく、エンドエンドで つながれば良いということ。

ということでは、責任は重く、ローカル通信事業者に早くやってもらうと言う仕事は 大変だが、うまくいけば、誉めてもらえるということになる。

今回も、ワンストップショッピングでやったことにより、誉めていただいたケースも あり。当社のスタッフの努力が報われる時はとにかくうれしい。

新規に参入した企業向け国際データ通信事業者として、最初はなかなかお客様に使っ ていただけず、悩んだが、ローカルアクセスをふくめ、エンドエンドでサービスを提 供するという方針を堅持し、地道にやっているうちに、評価され始め、今回のこと で、確信を強めた。

と、いささか、自慢になってしまったが、その意味でもすぐに回復できず、ご迷惑を おかけしたお客様には全く持って、申し訳ないという気持ちでいっぱい。

いずれにしても、今回のような危機的な事態が発生した際、通信をいかに確保するか があらためて、今後に向けての課題。

大きな会社であれば、二重三重のバックアップも可能だが、規模が小さければ、そう もいかない。

電話もつながらず、携帯電話も同じような状況になると、LANが生きているうちはイ ンターネット。

今回の経験を生かし、どこの会社もどういう具合に対策を講じるかが課題。

安全になったということで、飛行機の荷物チェックも甘くなっていることは確かだっ たし、ここは安全だということで、気が緩んでいたことも否定できない事実。

今回は、不可抗力ということで許されるかもしれないが、これからしばらくの間、危 機が去ったとのびのびと言える日がすぐ来るという感じを残念ながら持てない中、通 信の確保という命題をどう解決していくか、この点でお客様の信頼を得られない事業 者は存続そのものが厳しいかも知れない。

高層オフィスからの退避ということが、今回のように実際に行われることを考える と、アパートや別のオフィスを臨時に司令塔にする必要がある。その際、一社だけで なく、複数社の電話や携帯電話、今回一度も切れなかったと言われているケーブルモ デムや専用回線など、代替機能が果たせるようにすることも必要。

しばらくは、通信の確保が社員の安全確保とならび、大きな課題。これを実現する会 社、リスクに強い会社だけがお客様の要望に応えられ、生き残れるのかも知れない。

 

米国の通信(2001年11月)

1. レストランは満席

今年のニューヨークは一旦寒くなったかと思うと、20度を超えるような日もあり、秋と冬が交差しているような感じ。
それでも紅葉が次第に散り、落ち葉が増え、枝があらわになって、冬らしさは確実に近づき、ロックフェラーセンターのスケートリンクもオープンし、そこはいつもの季節。

まだ夏だった9月11日からは、凍結したような、真空のような時間がそれまでとは全く別に流れているようで、不思議な気分。

光陰矢の如しで、あっという間に過去のことのようになった部分もあれば、11日から一歩も動いていない時間もある。

一日のうち、また自分の中でも同じことが繰り返し起こり、しばらくの間、付き合っ ていかなければと思うものの、終点のないバスにのっているよう。

息をするのも恐いという状態にめぐり合うとは思わなかったが、気にし始めると呼吸 もできないので、仕方なく、平気にしているが、気分は晴れない。

とりわけ、マンハッタンにいると、一旦マンハッタン島の外に出ると橋やトンネルが 通れなくなり、戻れないのではとの恐怖感で、お客様訪問でニュージャージーに行っ たり、日本への出張でJFK空港に行くのは平気だが、週末に郊外に出るのは勇気と決 断が必要。

自分だけかと思ったら、ここに住む人共通の感覚。これじゃ、ますます気分が晴れな い。

日本人だけが過剰反応しているわけではないと思うが、日本人観光客、旅行客の減り 方が群と抜いているというのは統計でもあらわれているらしく、街でみかける機会は 少ない。

確かに、日本人で持っていたような店の落ち込みはすごく、閑古鳥状態であがった り。現地駐在員同士の宴会も減っているので、日本料理店もたまらないらしい。

一方で、アメリカ人は、大統領や市長の呼びかけもあり、かなり活動を再開し、国内 線の飛行機も大分搭乗率が戻り、ホテルも多少ましになったらしい。

とりわけ、顕著なのがレストラン。最初はさしもの人気レストランでもがら空きだっ たみたいなのが、最近では満席の場合もあり、予約がとれないこともしばしば。

日本人に頼らす、アメリカ人の多い日本食レストランも同様。かつてと同じに見える にぎわい。

ミュージカルも最近始まったMAMMAMIAというABBAのヒット曲をフィーチャーした作品 など、チケットがとれないこともあるらしく、閑散としていたタイムズスクエアにも 人が戻り、一見、前と同じになったよう。

街の暗さや地下鉄で笑顔が見られないという状況ではなくなり、ニューヨークらしさ は戻りつつあるのは確か。

ただし、街のあちこちにみられた地球の歩き方を抱えた日本人観光客はほぼ皆無。天 気のいい週末、ニューヨーク名物になった二階建てバスの二階が満席になっても、日 本人観光客は戻ってこない。

多くの企業が出張禁止や自粛している中、観光客が戻るということは期待できないの は事実だし、観光など不謹慎というのも理解できるが、こちらで住み、息をしている 身にとっては、じゃ、われわれは何なんだろうと思いたくもなる。

もっとも、自分で飛行機にのるのは、自分のリスクだから、意外に平気だが、スタッ フや家族、知 り合いがのるとなると別。やめられないかとか、近場なら鉄道や車が使えないかと思 う。

2. ホリデーシーズン

夏休みから一気に年末になったみたいだが、問題はサンクスギビングデーの連休で始 まるホリデーシーズン。

連休を利用した旅行、買い物、バーゲン、等々、一気に消費の加速する時期。ここが 勝負どころ。

が、失業率の急速な上昇、先行き不安、好景気の終焉、戦争の継続など、好材料はほ とんど皆無。

満員になったレストラン同様、がら空きだったデパートや高級店にも人が戻りつつあ るようだが、実需につながるかどうかということになると別。

10月はじめの三連休では、旅行はほぼすべてキャンセルだったとのことだが、今度 がどうなるか。もっとも、じゃ、行く気分になるかというと、そうではないので、旅 行会社にはもうしわけないことになりそう。

もっとも、日本語放送をみていると、炭そ菌騒動にしてもテロの予告にしても、アメ リカという広大な土地で起こっているのではなく、狭いところで起こり、危機が凝縮 されているみたいな報道が多く。これを見てアメリカに来ようとか、ニューヨークに 行こうという気にならないのは確か。

石橋をたたいて渡らないのは賢い選択で、自分でもついついそうなってしまうのは、 こういう危機状態の一歩手前の常。

それがテロの思うつぼ、恐がるということはひとつの成果だとわかっていても、積極 的にはなりにくい。

が、負けるものかという気持ちも大切。あえて火中の栗を拾うのも大変だが、ひょっ とすると、後方支援もさることながら、アメリカへの日本人観光客、世界への日本人 観光客がいつも通りになるというのがもっとも大きい国際貢献かも知れない。

このまま街が元気らしさを取り戻し、人が増え、渋滞も再び始まり、一見かも知れな いが、元みたいなニューヨークになった時、日本人だけがひっそりしていて、戻らな いというのも異様。

9月、10月と軒並み中止されたパーティやイベントも大分再開され、人も集まり始 めている。

一気にアメリカ国旗が街にあふれ、愛国心が高まったアメリカをみて、戸惑いを覚 え、今でもアフガニスタン爆撃以外に方法はなかったのか、世界の警察官であろうと するアメリカらしさなのかとも思うが、一方で、自分たちの国という一見自意識過剰 なほどの愛国心はわかりやすい。

彼らも恐いはず。むしろ、アメリカ人の方が繊細で感受性が強い気がするし、個性を 尊重し、団体行動になじまないようだが、多民族国家の統一した意思というものの強 さを見せられた気がする。

そんな中でのホリデーシーズン。ここ十年の好景気でたまったストックはまだまだ豊 富。確かに街角のホームレスは一時期より増えた感じもするが、危険なところの多 かった1980年代とは大違い。

来年中ごろには景気回復などと言われても、まさかと思っていたのが、そうでもない のではという気もしてくる。もしかするとアメリカの愛国心は景気回復という局面で 機能を最大限に発揮するのかも知れない。

減少という事実を誇張せず、ここまでしか減らなかったと見るほうが実像かも知れな い。

3. 危機への準備

ガスマスクや抗生物質。準備することが次第に増えている。守るべきものとして、生 命に続くくらいになったのが通信。

9月11日以降、うまくいったこと、うまくいかなかったこと、それぞれに多々あ り、一部のお客様には長期間ご迷惑をおかけする結果となったが、強く感じるのは、 通信確保の重要性。

理想から言えば、どんなことがあっても瞬断を許さないことだが、それにはコストも かかるし、物理的に可能かどうかもポイント。

オフィス自体に入れなくなる、あるいはなくなるということも考えると完璧に準備す ることがいかも大変かに気づき、呆然とする。

が、手段が多様化しているのも現代の特徴。完全な回答はないにしても、視点を変 え、発想を豊かにし、知恵を働かすことで欠点をなくしていくことは可能。

そんな中で、通信事業者の役割は、単にお客様の注文をこなすだけでなく、適切なア ドバイスやアレンジ。

これが当然のことながら簡単ではない。お客様の業種やロケーション、予算、IT部門 の規模などさまざまな要素がある。

電話線一本だった時代とは大きく異なっている。情報通信への依存度が大きくなって いるという点では脆弱性が強くなっているかのように見えるが、実際には、代替手段 が豊富になったこと、組み合わせをすることにより、格段にリスクが減少する。

とりわけ、顕著なのがインターネット。何らかの手段でインターネットを使えれば大 丈夫だし、逆にインターネットが使えないということになるとどうにもならなくな る。

数年前とは大きく変化。さらに、記録や文書の保存、仕事のプロセスが電子化された ことにより、消えないようにする、ないしは継続してアクセスできるような手段の確 保が大事。

もちろん、セキュリティを確保できるという条件がなく、誰にでもアクセスできるよ うでは信頼は得られず、使えない。

情報通信手段が多様化した結果、危機の準備もお客様の事情に沿った対応が可能と なったが、どれをどう組み合わせていくかによって、優劣が明確になり、せっかく準 備しても働かない、お金ばかりかかるのに、役に立たないということにもなりかねな い。

これだけやっておけば、良いということはユーザーにも事業者にもありえず、単品で は勝負できない。

トータルソリューションというと、大げさになるが、お客様の要望を具体的に聞き出 し、処方箋を作れるかどうかが鍵。すべてのことに詳しくプロフェッショナルになる ことは不可能だが、ラインナップとしてそろえることは可能。

単品だけを効率的に売るということから、組み合わせ、ソリューションとして提供で きる力を持つところだけが生き残れるのかも知れない。きびしい選択が始まっている 中、コアビジネスを持ち、しかも多様なご要望に応えられるよう、限定なく、既存の 商品を効果的、経済的、弾力的に組み合わせ提供できる力を持つことがサバイバルの 条件。

 

米国の通信(2001年12月)

1. クリスマスツリー点灯

日本のテレビでも報道されたように、11月28日、マンハッタンのど真ん中、ロッ クフェラーセンターのクリスマスツリーの点灯式が行われ、ニュージャージーから運 んだ立派なもみの木がライトで飾られ、見物客で大賑わい。

点火式の当日は、いつもより警戒がきびしく、ものものしい感じにはなっていたよう だが、点灯したあとのきれいな光をみると、ほっとする。

ニューヨークは不滅です。アメリカは神に守られ、国民は立ち上がる、など、戦争標 語のような文句がいたるところで見られ、胸にアメリカ国旗をかたどったバッジをつ けたり、赤、青、白という国旗の色のリボンをつけたりと、見方によればきなくさい 感じになるが、豊かさの象徴とも言えるクリスマスツリーがいつもと同じに点灯して いるのをみると、アメリカ国民でなくても安心した気持ちになる。

去年、ブッシュ、ゴアの大統領選挙がフロリダの開票結果をめぐり、前代未聞の数え なおしとか訴訟になっていたのがうそのように、民主党支持者もブッシュ大統領のテ ロ対策、アフガン爆撃を支持している。

一方で、ホワイトハウスのクリスマスツリーの公開は、豊かで平穏な暮らしをしてい るとテロに狙われるということで自粛をしたという報道を聞くと、いつもと同じでは ないということをあらためて痛感。

テロ直後、パールハーバーの再来ということが記憶の中からよみがえり、パールハー バーのTシャツを着た人、ブッシュ大統領の演説など、テロと同列になり、実際に襲 われた日本人がいたといううわさを聞くと、アメリカは攻撃を自らの国土で受けたの は今回が二度目ということを思い出す。

片方は国際法上の戦争で、片方はテロだからという区分は明確だが、宣戦布告の遅れ による奇襲だということもあり、自然と結びついた。

幸い、その後、このような形での異民族排除は続かず、ほとぼりも冷め、テロ撲滅の ための戦いということになったので、肩身の狭い思いや、いやな思いをすることもな いが、外国に住んでいるということを実感。

そんな中でのクリスマスツリーだから、例年より、ほっとする。デパートの飾りつけ も終わり、街路樹にも飾りや灯りがつき、街のムードはクリスマスへとまっしぐら。

これで、観光客が戻り、消費が回復すれば言うことなし。テレビでも市長や俳優が出 て、ニューヨークは安全でいつもの通り、エキサイティングで楽しいと宣伝。

確かに、街の活気は11月になるあたりから戻り、渋滞も人ごみもいつもと同じに なっている。観光バスの台数も増え、ニューヨーク名物にもなったロンドン譲りの二 階建てバスも観光客を満載して、週末のマンハッタンを行き来している。

サンクスギビングの連休後のバーゲンもデパートや商店が新聞広告や折込み広告で、 にぎやかに宣伝し、ショッピングバッグを持った人も増えているが、高額商品がどん どん売れ、景気が良いと判断されるようになっているわけでもなさそう。

失業率の上昇、先行きの不安となると、宵越しの金は持たず、買い物好きなアメリカ 人でも、財布の紐が硬くなっているよう。

もっとも、クリスマスを過ぎたころになると、75%割引などになるが、今はせいぜ い30%、それもセレクティッドアイテム、つまり、一部の商品だけなので、消費者 の購買意欲をかきたてるというところまでは至っていない。

それでも、クリスマスが近づき、街がにぎやかになると心がうきうきするのも確か。 つらかったことを忘れ、新年を迎えることができそうに思える。

現実は現実として変わらないが、何はともあれ、元気回復が一番。クリスマスツリー のイルミネーションがひときわ輝いて見える。

2. 日本人

いつもに戻ったようにみえるニューヨークで、みかけないのが日本人観光客。

街行く地元のアメリカ人や他の観光客にくらべ、身ぎれいでこざっぱりし、なんとな く華奢な感じで、ガイドブックをみていると大体日本人。

ファッションの先進地ニューヨークでも、華やかな格好をして歩いている人はごくご くまれ。ほとんどが地味な色合いで、特に冬は黒っぽい服装ばかり。しかも、きょろ きょろとしている人は少なく、しっかりと歩いている。韓国や中国の人も顔は似てい るが、雰囲気がちがう。一番のんびりした風に見えるのが日本人。

その日本人観光客が街からほとんど消えたのだから、結構目立つ。

多くの企業がアメリカ、特にニューヨークをレベル1の危険地とし、出張や個人の渡 航でも禁止しているという状態がなかなか終わらないらしく、日系の飛行機も例年を 大きく下回る状況が続いている。

逆にアメリカ系の飛行機は、アメリカ人がいつもと同じように出張をしていること、 便数が間引きされているので、結構混んでいるらしく、対照的。

国内線も同様で、間引きのせいもあり、搭乗率はかなり高い。

炭そ菌や飛行機の墜落、テロ予告など、安心してニューヨークにいけるという状況で はないが、ニューヨークでも数の面でベスト3に入り、しっかりとショピングや食事 でお金を使ってくれていた日本人観光客の減少はニューヨークの経済にとっても痛 手。

実際住んでいると、こわくないかと言えば、そんなことはなく、すっきりとした日々 が戻らないかなと願うばかりだが、記憶が次第に薄れつつあるのも確かだし、気にば かりして、おどおどしているより、多少リラックスをして楽しむほうが自分にも周り にも良いということで、元に戻りつつある。

こわさと危険に遭遇する確立を数値化するの簡単ではないが、おそらく、ニューヨー クでテロにあい、飛行機でとんでもないことになる確立は、交通事故やその他のトラ ブルと比べ、極端に多いということはなく、現実にはテロ以前とほとんど変わってい ないと考えられる。

確かに炭そ菌は見えないものなので、呼吸をするのもためらう感じがするが、だから と言って、数が激増しているわけでもない。

ま、そんなに危険はないと考えるか、少しでもいつもと違うと危険増大と考えるかの 問題だが、日本人のリアクションがオーバーであるのは否定できない。

事実、ここには多くの人が住んで、仕事して、観光しているのだから、9月11日直 後の状態が続いているわけではなく、マンハッタンの多くの場所からみえたツインタ ワーが見えないということを除くと、何も変化がない。

観光に来て、何かがあり、帰れなくなったらという気持ちはわかるし、自分でもプラ イベートの週末、マンハッタンを出て、帰れなくなったら困るという感覚は強く、郊 外にでる機会は激減した。

感覚的にこわいということで、すべてを自粛し、大丈夫だと言われれば言われるほ ど、疑心暗鬼になって、行動を抑制する。日本人の特徴かどうかわからないが、大丈 夫というニューヨーク市の宣伝はあまり効果がなさそう。

しばらく経つと、すっかり忘れて、どっと繰り出すということになるかも知れない が、はっきり終わるとか終結宣言がないとずるずると続くという最悪の事態も想定さ れる。

3. リスク対策のコスト

2年前のY2Kの時も、アメリカの対応は理論的にリスクヘッジし、日本はがんばりま すとか最善を尽くして努力するとか感覚的だと言われたのも同じ。

誰がやっても良いように、細かく手順を決めるより、まず、体制を作り、精神論をス パイスにして対応するというのが日本の特徴。

情報通信への依存度が高くなると、精神論ではとても対応できなくなり、入念な準備 をしていたかどうかで大きな違いが生じることになる。

一番良いのは同時に災害にあう確立の少ない異経路を通ったキャリアで相互にバック アップするというもの。しかも常時動かしておくことによって、いざという時に困ら ないようにする。

同時に、サーバーテロへの対策として、専門家が常時監視し、アクションをとり、シ ステムへの侵入を防ぐという観点も重要。

ところが、これらの対策には多額のコストがかかり、二重にしておくことで、常時、 片方は使わないことになるし、サイバーテロも頻繁に起こるものではないとなると、 あたりまえのことだが、途端に出費が惜しくなる。

データセンターを外部に作り、アウトソーシングをして、しかも他の場所との間で相 互にデータを補完しあうという発想も、何もなければ余計なコストと考えることもで きる。

スタッフの削減とか、目に見える効果があれば良いのが、確立論で考え、他にも被害 があれば同じと考えると進まない。

ここで必要なのが柔軟な発想。すでに多くの会社でとられているのは、テレビ会議の 活用。直接出張回数を減らせるという効果と同時に、いざという時には、その回線を 使ったり、増速したりすることで、バックアップとして生かすことができる。

平常時に遊休資産とならず、緊急時に活用できるという方策は他にも考えられる。

とりわけ、ローカルアクセス部分は災害の影響を受けやすく、容易に経路を変えるの が困難であるため、別ルートを物理的に確保しておくことが何よりも必要。

もっとも、小規模のお客様の場合はISDNやケーブルモデムの活用など、すでに実用化 されている方法を組み合わせ、選択肢を増やすことで対処できる場合が多い。

今回のテロ以降、リスクマネジメントへの関心は高くなっているが、コストを考慮す ると、何でも良いというものではなく、効率的で、できれば直接経費節減のメリット があるというものでないと受け入れてもらえない。

日系の多くの企業は、ニューヨークへの出張禁止とか出張自粛状態にあるいまこそ、 情報通信手段を生かし、出張しなくてもすむ、あるいはもっと効率的になる手段を弾 力的に考える好機。アメリカ企業、特に大企業の場合、徹底的に行い、オフィスの移 転も含め、対処している。

コストパフォーマンスが良く、しかもリスク時の安全が確保できる知恵を出せるかど うかが、情報通信事業者としての成功の鍵。