米国の通信(1999年)

米国の通信(1999年8月)

1. エスニック市場

街角の雑貨屋に貼ってあるポスター。いろいろな種類があり、みているだけで楽しい。
その中で結構目立つのがテレホンカードのポスター。テレホンカードと言っても、日本のとは違い、磁気カードではなく、またフランスのような簡易型ICカードでもない。
7月にNTTの再編成でできた長距離国際会社、NTTコミュニケーションズではまだ売っていないが、日本の国際キャリアも海外旅行客用に売っているので使ったことのある方もいると思う。まず、着信無料の800番サービスの電話番号(最近は800番では足りなくなっていて888番とか他の番号もある。)にかけ、暗証番号を入力すると、カードの金額の範囲内で通話をすることができるというもの。
つまり、カードである必要はなく、暗証番号さえあれば使える前払い式の通話。
で、ポスター曰く、国内ならいくら、国際ならいくらというもの。多少基本料金的なものがあるらしく、計算が合わないが、ある地域向けで1分いくら、10ドルだったら何分ということになっている。
この価格がえらく安い。カードによって得意な地域があるようで、期待している市場に応じて力の入れ方がアジアだったり、中南米だったりし、そこが格安になっている。
で、日本向け、月に3ドル程度の基本料金を支払い契約をしてかける場合、契約なしに7桁の番号を回してかける場合、どちらももっとも安いのは1分15セント程度。
カードでも同じかそれ以上の場合もあるが驚いたのはたったの1分6セント。
確かに最近の市況では4セントとかそのくらいで業者間取引がされているとの話だが、これはまさしくリテール。ひょっとするとかかり具合の悪い可能性もあるが、そこは残念ながら試していない。こういった格安カードをよく使っている人の話によれば品質的にはなんら問題はなさそう。1分6セントはともかく、1分10セント以下ならぞろぞろとあるので、何回か失敗する覚悟であれば、おそらく大丈夫。
世界中から人の集まるアメリカ、特にニューヨークはその中心。テレホンカードビジネスもエスニック市場をねらった商売。
集まる人の多様性をあらわすのが、品物の原産地表示。こちらで買った衣料品のタッグをみると、中南米では、メキシコ、ペルー、コロンビア、ホンジュラス、プエルトリコなど、アジアでは香港、中国、マレーシア、バングラディッシュ、スリランカなど地理の勉強をしているよう、この他にも多くの国の製品が入っており、アメリカ製を探すのは至難の技。
こういった品物とともに、いろいろな国の人がいるモザイク模様。決して、溶け合っていないのかも知れないが、同じ空気を吸い、英語を使って仕事をしようとしている。それでも、ルーツはルーツ、故郷はなかなか忘れられない。

2. 限りなく値下げ

いろいろなところから入っている品物。一部に例外はあるが、総じて日本より安い。特に衣料品、食料品など、日用品が顕著。もっとも、逆にブランド品も車から贅沢品まで結構安く、昔ほどではないが、ここまで来て買っても合うようなものの多い。
このような物価水準に加え、底辺となる人件費があらたな参入により、低く抑えられているとと、土地代の安さ、無限とも思えるくらいの資源など、有利な条件がいっぱい。
景気が悪くなるとこれが一変して悪条件に転換する可能性はあるが、すでにブラックマンデーを経て、バブルの清算をしたとも言え、しばらく景気は続きそうと言うのが一般的な見方。
その好景気の中で、3年前、こちらに着任してからでも街はきれいになり、人々の着ている洋服や持ち物が新しいものにあるなど、好調な経済を実感できる。物価安定下での経済成長というあらたな概念が現実のものになっている。
その中でも優等生が通信料金。こちらへ来て半年後の1997年春、一旦長距離通話の値段が上がって、これで過当競争もそろそろおしまいかという気がした。その時の値段がAT&Tで1分48セント。それでも決して高くなく、日本円にして1分150円強。その時点での日本発に比べれば格段に安く、日本発のインターネット電話や公専公の参入チャンスが十分にあり、事実、そういった参入もあった。
ところが、その後、市場のメンバーがそれまでの大手と再販をするニッチ業者という構造から、大手の第2ブランドやKDD、JTといった日系の大手の参入、インターネット電話や公専公による価格破壊などにより、現在の状況になっている。
極端に言えば、2年半で6分の1、大手同士でも半額から4割にまで下がっている。
国際電話の清算ルールをアメリカ主導で変え、その影響でそれまでにくらべ、大きく下がったばかりでなく、あらたな技術や規制緩和により、市場が良く言えば活性化、悪く言えば破滅的な競争に入っているかのよう。
日系テレビの最大のスポンサーがAT&Tだというのがその良い証拠。 このような値下げは国際電話ばかりではなく、FR、専用線も同様、市場全体で大幅な値崩れがおきていると言っても過言ではない。
一方で、市内系についてはそれほど顕著な値下げが行われているわけではない。CATVの参入もこれからという状態で、すでに入っているCATV電話の評価も余り高くない。
ベル系の会社も一部公衆電話を値上げするなどの動きはあったが、値下げをするという状態には至っていない。
企業向けについてはもともとの特徴である大容量を可能とする物理的回線を敷設してしまうという伝統が市内中心地の回線のリング化によりますます加速され、そこに新規参入が入ることにより、価格が必ずしも容量に比例しなくなっている。
さらに、ビル自体を地域の電話局化し、そこから直接長距離、インターネット、市内事業者へ接続をするということで、さらに低コスト化に拍車がかかっている。
したがって、一時は真剣に検討したのではないかと思われる住宅用加入者の市内時分制導入については、最近とんと聞かなくなっている。定額制、回数制を時分制に変えるのは現実的に難しそう。
企業向けの場合、時分制であっても、大容量に送る際は基本的には社内網。インターネットでも社内網がしっかりしていれば、上位のレイヤーで事業者に接続できる。これも企業が大きくなって生き残りをかける一因。情報通信コストは規模の経済が働き、割り勘要員を増やせば増やすほど、コストが下がる。
一方で、小規模、中規模の企業や住宅用。日本ほどISDNは一般に普及せず、バックアップ中心だったのは、一般の電話回線の増設費用、月額使用料が安かったためと考えられる。パソコン用のモデムがあれよあれよと思う間に56キロビットというISDN並みになったのがその証拠。
現在ではDSLが盛んに広告をしている。周囲で入ったという話をあまり聞いていないが、事務系の仕事をしている人同士の話題でも出るくらいだから、致命的な欠陥でもはっきりしない限り、ある程度は普及しそう。
加えて、もともと専用線が安く、T1(1.5メガ)のアクセスでもそんなに高くない。場合によっては家庭にも入っているほど。日本とは感覚がちがう。 街のあやしげなテレホンカードほどではないが、通信市場の基調は値下げ。規模が大きいことを利用して世界を主導していることは残念ながら事実。ここでも一人勝ちの構造。

3. アメリカそのものの輸出

東京の空き地やビルをアメリカ企業が買っているということでもわかるように、アメリカ企業の日本、アジアへの進出が盛んになっている。
これがわれわれのビジネスチャンスとなり、実際に顧客となっていただいているケースも徐々に増えている。
アメリカの傲慢さと言ってしまえば、簡単だが彼らはどこへ行ってもアメリカそのものを実現しようと努力する。どこへ行ってもモザイクのようにアメリカそのものを輸出し、その社会の外周に定着させようとする。ここがかつての覇者イギリスとの違いだとも言われている。
そこで問題になるのは通信のコスト。彼らの常識はアメリカのもの。郷に入らば郷に従えということはあっても、常識というか固定観念はなかなか変えられない。もちろん、払わないとか言うのではなく、きちんと契約し、払っていただけるありがたいお客様であるが、そこに至るまでの交渉はまさにタフ。
価格はもちろんのこと、信頼性についての確認、通信状態を記したレポートの提出、お客様情報の一元化など、要求水準は高く、契約を交わし、めでたしめでたしとなるまでの道は険しい。
反面、開通月日の確定や中間報告など日本の方がはるかにきちんとしていることもあるが、必要なものは必要で要求もきついというのが現状。
したがって、彼らの頭に残るのが、アメリカとの差異。良い部分はありがたく頂戴しながら、悪い部分についてはなんとかならないかということになる。当たり前と言っては当たり前のことだが、これが積もり積もって、対日要求になってくる。
相互接続料金に集約される通信関係の要求も単に、接続を要求した事業者から出てきているだけでなく、アメリカと比較した同じことをするコストの中で、相対的に通信にかかる価格が高いという一般企業の認識からも出ているはず。
これまで通信料金は国毎で事情や物価も異なるので、土地代同様、ちがって当たり前だったのが日米間のいろいろな意味での距離が縮まることに従い、水準そのものが問題になってしまう。しかも、高速で世界中がつながっていくと、相対的に安い国へと集中するのは自然の姿。
世界中の一流ホテルがアメリカのチェーンの傘下になり、しかも価格水準がほとんど同じということと同様。
インターネットの例で言えば、アメリカの住宅用で平均的に30ドル(1回10セント強の回数制の地域で昼間の料金で(夜、休日は6割引)1日3回アクセスしたとして10ドル、インターネット接続が無制限で20ドル弱)程度と想定される。
果たして、日本で構想されている1万円で使い放題と比べられるものかどうか。日本でも3000円とか4000円が最適水準と考えるか、これは難しいが、アメリカのAOLのように思いきった価格を提供できる事業者が出ると一気に流れが変わりそう。

 

米国の通信(1999年10月)

1. 異常気象

日本語のニュースを見ていると、日本国内も台風の影響での大雨の報道が9月中旬から結構あるようだが、こちらの大雨も尋常ではなかった。

日本でも大きく報道されたようで、いろいろな人から大丈夫かという問い合わせをいただいたが、9月16日にニューヨークへ最も接近したハリケーンFLOYDの規模はかなりなものだった。

ニューヨーク市内の公立学校が大雪以外で全面閉鎖されたのは初めてとのこと、官庁は公立学校に連動して休業。会社もほとんどのところが昼までで、退社。午後からのオフィスビルは閑散としたものとなった。

当NTTアメリカも昼で休業。それでも近郊から電車やバスで通っている社員はいつもの倍以上もかかって、自宅にたどり着いた模様。地下鉄をはじめとする交通機関が止まらなかったのが幸いであったが、隣のニュージャージーではしばらく経っても洪水がひかないなど、ニューヨーク近郊での影響はかなりのもの。

もっとも、交通機関だけみれば、8月下旬の朝の方がもっと影響は大きく、いろいろなところが集中的な豪雨で水浸しとなり、電車や地下鉄が止まり、会社にたどり着けない社員が続出した。

その反省もあって、市も会社も、社員も対策を講じた結果、ハリケーンによる通勤難民の発生を最小限にとどめたとも言える。

来年ニューヨーク州から、クリントン大統領夫人のヒラリーさんの対立候補として共和党から出馬する予定といわれているジュリアーニニューヨーク市長は、この好機を活かし、テレビで会見を行い。ちゃっかりと自分の業績と対応を最大限にPR。

犯罪が減り、安全できれいな街を実現した功績者であるので、説得力は大。

ハリケーンまでも、選挙応援に使おうとする姿勢はなかなかのもの、これからの論戦は、部外者ながら楽しみ。いろいろなイベントで顔を見る機会も多くなりそう。

今年は異常気象。大雨の前は旱魃とも言えるほどの少雨が続き、畑のとうもろこしがたち枯れるという悲惨な状態。

今回洪水となったニュージャージーでも、芝生に水をやってはいけないというお触れが出たり。マンハッタンの水がめであるセントラルパークの貯水池も大分水位が下がったとのこと。

それが、打って変わって今回は大雨。しかも、この7月の東海岸の気温は異常値で、華氏100度(摂氏37度)を越えるような日が続出。湿気も高かったので余計。日本と同じに汗びっしょりの日が続いた。

ここ3年、夏の暑さはほどほど、冬の雪も少なく、気温も一時を除けば、まあまあだったが、夏の暑い年の冬は寒く、雪も多いと言われているので、戦々恐々。

2000年を前にした1900年代最後の年らしい異常な状態。今のところ、このような異常気象の中でもアメリカの経済は恐慌ということにはならず、引き続き、好調だが、一寸先は闇かも知れない。

2. 何が起こるかわからない

ここ数年、経済が好調で、株価も上昇気流。しかもあらたな分野、つまりベンチャー投資への資金の投入や業種や国籍を越えてまで行われる企業の合併、買収など、ここでは何が起きても不思議はないという状態が続いている。

こんな中で、主役のひとつが情報通信。1996年の通信法改正で、長距離事業者と市内事業者との相互乗り入れなど、規制緩和を行った結果、7社あったベル系の市内通信会社はすでに4社となり、しかもそのうちUSWESTは新参のケーブル保有型長距離会社であるQWEST社に買収され、Bell Atlantic社はベル系以外で古くからある独立系通信会社GTEを買収するなど、分割前のAT&Tを基準としていた業界地図が大きく変わってしまった。

そのAT&Tも、TCIなどCATV会社の買収や提携を行った結果、全米最大のCATVオーナーとなり、長距離通信会社としての性格を変えつつあり、既存の伝統的な長距離通信分野での大幅な人員削減が計画されている。

国際戦略でも、AT&T中心のコンソーシアムであるWorld Parterはすでに解散を決め、AT&TはMCIとコンサートというコンソーシアムを組んでいたBTと組んで、国際事業会社を作り、さらに日本テレコムに出資して、国際通信分野での日本市場参入に努力をしていた日本での自社法人の機能を日本テレコムに移管するなど、大きな変動がおきている。

IBMからIGNというネットワーク事業を買ったのもその一環。単なる米国最大の長距離通信事業者から、グローバルな総合ソリューション事業者への転換を指向していることを明確にした結果と考えられる。

さらに、スプリント、フランステレコム、ドイツテレコムを中心に構成するグローバルワンも瀕死の状態。

今後、グローバルキャリアとして生き残れるのは数社というのが、識者の共通した意見でもあり、業界でも同じ認識を持っているが、今のところ、その指定席を手に入れたといえるキャリアがないのも事実。つまり、これからもまだまだいろいろなことが起きそう。

本来、保守的な市場の中で、競争してきた通信事業者でさえ、そうなのだから、新規に起業し、すばやくのし上がったきたISPや新規の長距離、市内業者ではなおさら。

小が大をのんだのはQWESTのUSWEST買収ばかりでなく、WorldComのMCI買収、規模は小さいがGlobal Crossingのフロンティア買収。

このGlobal Crossingという会社は創業以来、わずか2年あまり、USWESTはこの会社が買うということで、一躍脚光をあびた。長距離業界でBクラスのフロンティアではあるが、それでも予想可能とはとても言えない事実。

結局、ボリュームが増加し、かつラインナップが水平に拡大して行くという経済原則そのものに則った動きとも言えるが、業界の境界線や定義そのものがあいまいになった現在、将来の可能性の範囲はますます広がっている。

かつて、航空業界との類似性があり、ある時点で、参入による事業者の乱立にともなう競争から、離合集散を経て、寡占化の道をあゆみ、価格決定権をキャリアの手に戻すのではないかと見られていたが、航空業界にくらべ、ニッチの市場参入者が成功を収める確率が高く、寡占や独占への回帰は難しそう。

可能性が高いのは、金融と流通。この両者はエレクトリックコマースというキーワードを通して、密接に結びついているが、この両者は情報通信利用業という観点で、すでに情報通信市場でのプレイヤーとなっている。

このような動きを今予想するのはなかなか難しいが、旧来のキャリアの基本業務であった、通信そのものの事業が大幅な変化をとげている。

産業のインフラとしての地位を占めるウエイトが高くなればなるほど、業種を越えた新規参入が増え、技術の進歩にともなったコストの大幅なダウンなどにより、利益の少ない競争を続けざるを得ない状況となっている。

このような事態は、単なる局地的な異常気象ではなく、通信事業そのものに必然的なもっとなってしまった、一種の自然の摂理ともいえる。

3. 米国内通話1分5セント

それをもっとも端的にあらわし、わかりやすいのが国際通信、長距離通信分野での競争。

AT&Tの分割以降、競争は激化したものの、どこかで落ち着くと見られていたのが、とどまるところを知らない状態が続いている。

AT&Tが米国内1分7セントのディスカウントプログラムを開始し、とうとう1分なら日本の市内通話よりも安くなったと驚いていたが、スプリントのプログラムは夜間だけだけど、1分5セント。円高傾向の今、10円で2分近く話せることになる。

日本向けも1分20セントの大台を割り、AT&Tのプログラムで19セント。契約型でない大手の第2ブランドでは18セント。無名会社では15セント以下。

かつて、日本へ3分かけると何千円したので、なかなかかけられなかったという思い出話をする年配の方がいて、確かに1ドル360円時代に日本へ電話するなど大変なことだったということがわかる。

今は1時間、日本との電話会議を自宅からしても、10ドル強。かつての贅沢品の面影はない。

急激に大容量回線の提供が可能となり、コストが大幅に下がったこともあるが、規制緩和による市場への参入で競争が激化し、超過利潤を確保する余裕などどこにもなくなってしまったというのが事実と思われる。

日本向け通話の最高価格、最低価格をAT&Tのプログラムでみても、この3年間で、39セントから一旦48セントに上がったものの、現在ではほぼ3分の1の19セントとなっている。

つまり旧来からある通信事業者は否応がなく、競争市場に能動的に参加し、攻撃こそ最大の防御であるという原則のもと、自らの市場を守るあまり、価格イニシアティブをとり、結果として市場そのものの規模を縮小してしまうという状況を招いている。

何回かあった価格低下のきっかけを作ったのは新規に市場に参入したKDDや大手キャリアの第2ブランドだったりしたが、それに追随しつつ、リードした結果となったのは大手キャリア。

日本でも、業界の地図を塗り替えるような合併や買収、資本参加が行われているが、一方で、他業種や新規創業者が自由に参入できる状況を作り、寡占化を防いでいかないと、グローバルスタンダード化する米国の価格水準に取り残されてしまう心配がある。

相互接続料問題や市内インフラの共用など、米国からいろいろ注文をつけられている問題も、視点を変え、反論は反論として主張しつつ、NTTの活性化という観点でのポジティブシンキングが必要かも知れない。

 

米国の通信(1999年11月)

1. 座席が狭い

アメリカ人の体格は日本人の体格の少なく見積もっても2割方体積が大きいように思える。靴屋でサイズをみるとびっくりということが多々ある。それでも間に合わず、Big & Tall Shopなどという名前のキングサイズショップもあるくらい。

ところが飛行機のエコノミークラスの座席はえらく狭い。日本でのった飛行機にくらべても狭い。測ったことがあるわけではないが、誰に聞いても同じことをいうから、どうも感覚だけはないようだ。

体格の大きいアメリカ人がこの狭い座席に座るのだから時には悲劇がおこる。そして 、その悲劇は隣に座る人にも当然のことながら伝染する。

そこへ最近のようにパソコンをやり始めたらたまらない。3人がけの真中の座席しかとれず、両側は大男、しかもパソコンが出てきたら身動きどころか、キーボードをたたくたびに振動が伝わり、居心地の悪いことこの上ない。

ある時、後ろの席だったので早くに乗ったら、巨大な人が前を歩いていて、しかも空席だらけのなかで、たまたま巨大な人が座っているという状況で、ひょっとしたらと思ったら、なんとこの二人は隣同士、二人の絶望的な表情とスチュワーデスになんとか席を変えてほしいという声が聞こえたのが印象的。結局、空席はなく、後ろの席からみていると結構仲良くしゃべっていたので、降りる頃には友達になっていたみたい。もっとも3人がけだったから、あと一人は窮屈だったはず。

大型の飛行機、たとえば、ボーイング767などは3クラス、つまりファーストクラス、ビジネスクラスとエコノミークラス。国際線ほどではないが、東西間など長距離路線に使うので、結構ゆったり。小さな飛行機では実質的にはビジネスクラスであるファーストクラスとエコノミークラス。このファーストクラスは座席が大きいだけで、シートの間隔は結構狭く、居心地は今一つ。

ジャンボの生産国アメリカでは不思議なことに国内線でジャンボを飛ばしているのはほとんどなく、最大で767か777クラス。細かく路線が縦横にあるので、一便あたりの輸送需要は東京札幌や東京福岡にはとてもかなわない。

それにしても、座席は狭い。多少広いのはモノクラスのワシントンやボストンとニューヨークを結ぶシャトル。デルタ航空とUSエアウエーズがあわせて30分間隔で飛んでいる。かつては飛行機の中で切符を買えた時期もあったようだが、今はほとんど他と同じ、デルタ航空が座席指定無しというのだけが相違点。

座席の間隔は比較的広いものの、飛行機は727、大分年代モノというのが目視でもわかるくらい。最近になってようやくエアバスA320に変えるとのこと、さすがに727では無理になったのかも知れない。

料金も高い、東京名古屋とほぼ同じニューヨークワシントンが片道202ドル。他も安くはない。東西間のエコノミークラスは6時間かかるとは言え、往復約2000ドル。

もちろん、3ヶ月前の購入とか、土曜滞在とかの特別料金はへたをすると5分の1とか10分の1近くになることもあるので、そんな料金でのった時には、狭さも苦にならないが、明日行こうとすると、正規料金。それでも狭さは同じ。隣が空いているとほっとする。

2. 寡占下のサービス

自由化された航空業界は変遷を経て、寡占状態。ハブという名のもとに、自社のエリアを確定し、路線毎の競争はせいぜい2社。

となると、コスト構造に大きな差はないので、どうしてもサービスも似たり寄ったり、マイレージプログラムのおかげでただ乗りやただアップグレードが横行していれば、どうしたってつめこみたくなるのが人情。

5社が運行している東京ニューヨーク線はエコノミークラスにもテレビを全席につけるなど、バブルの頃には見向きもしなかったエコノミークラスのサービス改善競争が始まっているが、国内は全然。

ニューヨークからロンドンやパリも、東京同様競争が激しい状況になっており、のってないので質はわからないが、冬のオフシーズンには往復200ドル台でロンドンという驚異的な値段も出現する。

自由化の当初は路線を自由にひける、参入も容易ということで、値下げ合戦が行れ大衆化が一気に進んだようだが、その後は陣地を決め、整備や乗務員の拠点をまとめ、そこを中心に路線を展開した方が効率的ということで、急速に選択と集中が進んでいった。その過程で新規参入業者の多くは淘汰され、現在残っているのは地域限定で、さらに選択と集中を行い得意な分野を作ることができた事業者だけ。

かつての概念の自然独占とは異なり、確かに価格は需要と供給にあって、間際に買ったり、混む時は高く、早期に買ったり、空いている時期は安い。しかもマイレージプログラムによる囲い込みはインフレ状態とも言えるくらい。つまり特典を使いたい時には席はなしということもあり得る。

でも、これは時間と空間を売る航空業界が、稼働率を平準化し、実乗率を上げるためのもの。囲い込みのためのマイレージと合わせた戦略。マイレージも最初の頃はアップグレード券を送ってきたりしてつなぎとめ、足を抜けられなくするというのが常套手段。

通信事業に先んじて自由化し、オープンスカイポリシーをとることにより、活性化をした結果がこの通り。確かにきめこまかなネットワークのもと、かなり小さな町でも飛行機がとんでいて、飛行機の大きさで調整してある程度の頻度を確保しているということはこの効果のひとつ。ただ、一点集中型でないという特徴。広さのため、通常の移動手段として飛行機を使わざるを得ないという事情を考えると日本とは大きく異なる。日本人のおよそ知らないような名前の町同士を結ぶドル箱路線も成り立つはず。

座席の狭さの理由がこの寡占状態に起因するのかどうかはわからないが、寡占状態と緻密なネットワーク、小さな飛行機主体などいろいろな要素があるはず。

毎回、搭乗するたびに、どうか隣に来ないように、来ても細身の人であってほしいと願うのが実感。通路側を確保できるとほっとする。

3. 窮屈な市場と参入の可能性

通信業界も寡占の構造。QWESTがUSWESTを、WorldComMCIがSpintを買収すると決めたことで、一気に寡占化が進み、しかも小が大を呑むということも平気で行われるようになった。

大きな市場だったはずがとたんにゲームのプレーヤーの数が減り、一時の二子山部屋のような状態。

ここで、一気に航空業界のように寡占化が進むと見るかどうか。まだまだ未知数だが、そのような供給側の論理が通用するという具合にはならないというのが一般的な見方。そこが航空業界と異なるところ。

キーとなるのが、インターネット、IP化、キャパシティ。特にキャパシティは顕著。独占をしていた旧規制事業者が門戸を開き、他業種からの参入もあって、乱立状態。供給過剰、値崩れを予測する向きが多い。しかも技術の進展により、光ファイバーで送れる情報量も格段に増えるのだから余計。

まず概念が変わったのは距離。遠いからお金をとれるという常識が通用しなくなった。現実に専用線ビジネスなど、へたをすると日米間の専用線の、日本、アメリカのアクセス部分の料金より、国際区間の料金が安く取引されているとうのも、日常茶飯事。

インターネットで余計この傾向が加速されている。しかも品質が良くなってきているので、単電子メールを送ったり、ホームページを見るだけでなく、電話やファックス、データ通信などでも、インターネット経由が成り立つようになった。

アクセスとプロバイダーに払うコストを除くと、極端なことを言うと料金はただ。市場の構成メンバーとともに、市場の中身自体が大きく変わっている。IP化を進めていくことで、その企業の主宰するクラブの会員になると電話もデータもその企業のセキュリティ網で送ってくれるなどという異業種からの参入も予測不可能ではない。

投資銀行が値段は高いが安全なネットワークを提供したら、かつてのスイスの銀行のような顧客をとれるかも知れない。

電話番号の問題、市内アクセス回線のリセール等々、市内寡占を前提にした開放が進むこと、IP化により、交換機からサーバー主体となることで、小さなところ、異業種、その他もろもろが参入できることになる。つまり、大型投資を必要とする重厚長大型産業から、知恵で生き抜けるタイプの産業に転換している最中なのかも知れない。トレードショーでのさまざまな提案や芽がそれを示しているとも言える。

ここは航空業界との大きな相違点。もっとも、アメリカのサービスが良くなったかというと、相変わらずの面があるが、主として悪いのはローカル。期日がはっきりしない。約束を守らない。品質が悪い。間違って工事する。など、苦情のタネはつきず。

アメリカだから仕方ないと割り切れない日系のキャリアにとっては頭痛の原因。ローカルにも競争は入っているが、まだまだ主流ではなく。携帯電話が固定回線を凌駕するということでもないので、ローカル事業者は安泰。2回線目の販売、DSLなど積極策も功を奏したのか、増収増益。

ただ、今後、CATVだけでなく、企業向けネットワーク、集合住宅向けネットワーク、固定型無線アクセスなど、確実に変化が起こっているのも確か。

通信事業者として、この状況をどうみるかということについては十人十色の意見があるはず。かつてのニューメディアブームなどの時のように、通信事業者の未来はすべてばら色といういうことにはなりそうにないが、ゲームへの参加者や種類が増えたということはそれだけ、スクラッチのゲームになった。つまり、可能性は格段に増えたと言える。

もちろん、規制がすべてなくなったわけではないし、他事業への参入どころか通信と放送との間の垣根も厳然としてあるが、インターネットの可能性の広がり、他業種ながら、米国での銀行と証券の壁の撤廃、など各業種、各国入り乱れての競争となっている。

生き残れるためにはそれ相応の体力、実力が必要。勝負はこれから。航空業界のような共存型寡占が無理とわかったからには方向はひとつ。多角的トーナメントが始まったばかり。

 

米国の通信(1999年12月)

1. インターネットがつながらない

11月25日の感謝祭につながる連休を使って、ドイツへ4日間の旅行をした。

感謝祭の時、飛び石になる金曜日は銀行とか官庁など、土日以外に連休になってはい けないと決められたところを除き、どこの会社も通常は休み。したがって、大体が4 連休になるから、日本のお盆や正月のよう。

感謝祭は、帰省をして故郷の家族と過ごすということで、空港も高速道路もラッ シュ。

祝日を米国にあわせてある駐在員にとっては、旅行するチャンス。日系の旅行会社も ここを狙って、パッケージツアーを販売。夏休み、クリスマスの時期と並ぶかきいれ 時。

間際になって探して、見つかったのが、フランクフルト行きの格安チケット。1時間 のフライトのワシントン往復よりも安い。

休暇なので、パソコンを持たずに行ければ良いのが、そこは貧乏性。日本が休日では ないし、やりかけの案件もあるし、ということで、パソコン持参。B5版のサブノー トとは言え、電源のコードと変圧器を加えると結構な重さ。

ヨーロッパは接続がモジュラージャックではないこともあるので、だめかも知れない と心配もされたが、持っていくだけは持っていくことにした。

ドイツは日本同様、アメリカに続く、インターネット先進国。フランクフルトの空港 にも、インターネットに接続ができるようなコーナーもあり、新聞記事、広告も多 い。

ところが、ニュルンベルグのホテル。重い思いをして持って来たパソコンに変圧器を つなぎ、幸いにしてモジュラージャックだった電話機に接続してダイアルアクセスし たが、つながらない。

ホテルの注意書きを良く読むと、まずRを回すと外線の発信音が出て、どこへでも、 国 際通話もかけられますと書いてある。ダイアルアップでホテルからPBXを通してかけ る 場合、アメリカだと8とか9とかを市外局番や国際識別番号の前に置くケースはある が、Rというのは聞いたことがない。

加えて、受話器を耳にあて、ダイアルをすると、プッシュホン、アメリカではタッチ トーンの音ではなく、懐かしいダイアル音。日本でも一時はやった擬似プッシュホン 。これでは、仮につながったとしてもだめ。

かつて、日本でもビジネスホテルなど、擬似プッシュホンのケースが多く、外から留 守番電話を聞いたりしようとすると、ダイアラーという名前のプッシュ信号発信機が 必要だったが、これはびっくり。

ニュルンベルグには、日本の土曜日まで滞在。つながらないのをこれ幸いと、パソコ ンを単なる重しにして、一切仕事を忘れられたのは不幸中の幸い。

2. 思いこみは危険

アメリカに3年余住んでいると、ホテルはどんなところでも、例外なく、インターネ ットに接続できるような環境が整っていて、まず不便に感じたことはない。ホテルか らの電話代が高いことを除けば、どこでもOK。

モジュラージャックの形態は心配したものの、まさか電話自体に問題があるとは想像 もしなかった。電話機の裏側をみて、どこかに信号音を変えられるようになっていな いかと探したが、どこにもなし。

この事実で、ドイツが遅れていて、アメリカが進んでいると指摘するつもりではな い。

便利なインターネットに頼っていても、肝腎な接続ができなければ、どうにもならな いということ。格好をつけるわけではないが、アメリカに来て、日本との時差。東西 でも3時間の時差があることから、Eメールなしには夜も日もあけずという状態。な ん とかつながると思ったのがまちがいのもと。

確かにドイツでもアメリカ系のホテルではそんなことはなく、プッシュホンできちん とつながるようになっているが、伝統的なホテルやエコノミークラスの地元のホテル ではそうはいかない場合もある。

よく考えれば、行く前に確認をするとか、接続できるようなホテルを探せば良いとも 言えるが、そこは休暇というのが言い訳。

小さな問題だが、2000年問題と同じ要素もある。当たり前のことができなくなっ た時、どう対応するかということ。

ほんのわずかでもEメールサーバーが止まったり、調子が悪かったりすると、当社のI T担当には苦情の連続。うまくいって当たり前。うまくいかない時は文句の嵐だか ら、 IT担当というのはストレスのいる仕事。

最初のころ、EメールやLANが会社に入り始めたころは好きな人がボランティアでこう いったことに対応。それが嵩じて、ITが本業になった人もいた位。

ところが、次第に仕事のなかに占める割合が高くなってくると、ついでにやるといっ た仕事ではなくなり、効果や影響を考えると、会社の運命を決するほどにもなってき た。

アメリカはその点先進国、最高情報システム責任者(CIO)がCEO、COO、CFOと並んで 配置され、かなり前から最高幹部の一角を占めていた。

日本の会社もこの事実の重要性を速いテンポで体得しているようで、情報システム投 資の増加というのが、現在の合併や提携の大きなテーマ。

が、現場レベルでは当社同様、IT担当者が悲鳴をあげ、毎日ストレスが高まるような 仕事に忙殺されているのが現状。

特に問題なのはアップグレード。マイクロソフトの戦略もあり、ソフトウエアが日に 日に便利になり、新たなバージョンが出てくる。

そのたび毎に、ソフトを入れ替え、入れ替えるたびにトラブルが発生し、IT担当者が 忙しくなる。

苦情を受けながら、必死に対応しているIT担当者をみると、気の毒とは思いながら、 ついついお願いというか、結局は文句を言ってしまうことになる。

代替手段を講じてとも言えるが、Eメールの欠点のひとつに、発信すれば、必ず着い て 、読まれているものと思ってしまうということがある。

受け取ったということの通知を求める機能もあるが、あとで、とかキャンセルという ボタンもあり、万能とは言えない。

そんな時、メールが読めない、出せないということになると致命傷にもなり、仕事が 進まなくなることすらある。IT担当者の悩みが大きくなることがあっても小さくなる ことはなさそう。

3. 誰でもできる

インターネットが普及した当初は、パソコンに詳しく、ある程度トラブルに対応でき る人たちがユーザー。今は仕事上のこともあり、ブラックボックスとしてパソコンを 使い、インターネットの仕組みには知識どころか興味もないという層が大部分。
そうなると、ドイツへ行ってつながらず、当惑するのと同じことがあちらこちらに発 生する。休暇の際は仕方ないと思われても、平日EメールやLANに頼りっきりのところ でダウンされても、それでは休みというわけにはいかないから、IT担当者への風当た りが強くなるのは仕方ないこと。

ところが、インターネットの普及にともない、様々な問題が発生する。先日来、問題 になったのは、メールソフト同士の相性。EUDORAの3.0バージョンからマイクロソ フトアウトルックに送ると、文字化けが発生して、解読不能になってしまう。これに は困って、究極のところ、Eメールが読めないので、電話で用件を聞くという珍事が 発 生。

この問題はいまだに解決していないが、EUDORAを次のバージョンにするか、あきらめ てアウトルックにするかで解決するしかない。

ところが、Eメールのソフトを代えると、これまた新たな問題が発生し、IT担当者が 忙 しくなる。

この問題の解決がこれからの課題。パソコンを使い、LANで仕事をすることが、特別 な ことではなく、誰もが気軽に使えるという理想に近づけば近づくほど、この問題が大 きくなる。

かつて、大型コンピューター時代はまさにブラックボックス。専門の担当者がいても 、結局はメーカー頼み。当初の導入は簡単でも、その後が大変。

パソコン時代になり、かつての大型コンピューター以上の能力を持つシステムの構築 が容易になり、ユーザーサイドの方にイニシアティブが移ったのもつかの間、今度は このシステムのお守りが大変。コンピューター担当だけがユーザーだった時代ではな く、経営者から新入社員まで、全員がパソコンを持って仕事をする時代になって、ま すます深刻化。

しかも、IT担当者を配置できるような規模の会社だけでなく、サーバーを置くことで 簡単にLANを構築できるようになったのだから余計。大企業でも小さな事業所では同 じ 問題が発生。

ここで必要なのはアウトソーシング。自分のところでIT担当者を抱えるより効率的。 とは言え、同じやり方では、手間ひまも同じようにかかることになる。 一方で、このところ大きく進んだのが、データ伝送の速度。特にアメリカでは顕著。 大型システムではなくても、メガ単位の速度で伝送。そこで、考えられるのがアプリ ケーションソフトの伝送。

今までは、アプリケーションソフトなどを送ろうとするとひと騒動。時間はかかるし 、その間よそのユーザーにも迷惑をかけるのが制限をしたり、自粛しようとするのが 一般的。

顧客の知らないうちに、ソフトを入れ替えたり、アップグレードしたるするのが、顧 客の要望にもぴったり。引越し同様、金曜日帰りにそのままにしておくと、月曜日の 朝には完了というのが理想。

アプリケーションソフトプロバイダー、略してASP。当初、格好良く、先端的なイ メー ジが強く、今でもそう思われている節もあるが、意味は広く、文字通り、アップグレ ードやソフトの入れ替えなどの地道な仕事と解するのがわかりやすい。

しろうとがユーザーの主流となり、新製品にIT担当者も追いつけないという事情もあ る現在、これがうまくいけば、文字通り、めっけもの。

こういう時代になると、つながらない、アクセスできないというトラブルの持つ意味 はますます増大するはず。2000年問題は、無事乗りきることではなく、これから も何かの拍子に起こりうることにどう対応するかが教訓。IT担当者が気持ち良く仕事 ができる環境作りがますます重要。

その意味で、IBMもブラックボックスに挑戦し、顧客の要望にマッチしようとしてい る ASPに注目。ローエンドと思われている仕事を含めたトータルサービスを制したもの が 勝つことになりそう。