米国の通信(1997年)

米国の通信(1997年12月)

1、店がなくなる

米国大手の雑貨屋であったウールワースが100年以上の歴史を閉じた。もっとも会社がつぶれたわけではなく、専門店として持っていたブランドネームで生き残るとのこと。

マンハッタンの真ん中にあった大型店も長い間クリアランスセールを行い、最後には店の調度までも売り物にして、本当にクリアランスして店を閉じた。今でもその日のまま、残念ながら改装は始まっていない。

これは大きいケースだが、街を歩くとこういったことをよくみる。この間まできちんと営業していたのがある日、がらんとしている。日本でも同じはずだが、よく目につく。中がよく見える店が多いので余計かも知れない。

大手の小売りチェーンでも同じ。弾力的に店の改廃をやるようだ。何時の間にかなくなっている。また、いつのまにか、別の場所に新しい店舗ができていると行った具合。そういう意味でも変化が早い。極端な例は、わずか数ヶ月で開店、閉店だったこともある。

この動きの早さには感激する。変えることに対して逡巡しない。これがアメリカの特徴の一つかも知れない。固定観念でこの国を見ると追いつくのが大変。小さな個人会社がいつの間にかマイクロソフトのように大きな会社になっている。

そこにはサクセスストーリーもあれば逆もある。だめとわかったらすぐに方向を変え、別のことをめざす。そこには混乱はあるが、次のことが立ち上がってからは早い。

重工業からの転換の際にはベトナム戦争など他の要素もあり、転換に時間がかかり、日本に追いつかれ、遅れをとったように言われたが、今はちがうようだ。割り切りの早さのため一時は城を明け渡しても、何時の間にか戻ってもっと大きい城のなか。

この強さが絶対的かどうかはわからないが、今のところは有効。電気通信分野でも同じ、1年経つと事情が急変、1年前の常識が通用しないことが出現する。

2、アライアンス

昨年NTTが国際分野に進出をするということが公表された時、3大アライアンスのどこと組むかということが話題になった。

AT&T、MCI、SPRINTという米国の3大長距離キャリアがそれぞれ、世界戦略を進めて行く中で各国のキャリアと組み、ワンストップショッピングで事業を展開していこうとするものがこのアライアンスの目的であった。NTTも当然このどれかに組みするのではいうのが世の中の見方であった。

この構造が少しづつ変ってきたのがBTによるMCIの買収の提案。これには少なからず驚いたが、その後の進展は周知のようにもっとおもしろいことになった。

一方でWTOの場で議論が行われた後、1997年の2月に電気通信市場の自由化にについての決議がなされた。そこでは今後原則として各国の電気通信市場への参入を自由化しようとすすもの。いくつかの問題や米国のように自由化と言いながら安全保障や国家利益等のために例外を容認する余地を残すケースなど、これからもいろいろな面での問題が予想されるが、国家と一体の存在であった電気通信事業が国境を越えて他の国で事業を行うことが常識となった。

米国の電気通信事業者は他の国の事業者に先んじて、その視野を世界に向け、各国の市場への参入を熱心に進めようとしていた。英国とともに米国は1980年代の中盤までに電気通信市場の改革を行い、国内に競争を導入していった。その結果、改革まではほとんどをAT&Tに独占されていた電気通信市場の規模は競争の成果として拡大を続け、技術の進歩やコンピューターの普及、進化もあいまって利便性が驚異的に増し、電気通信というビジネスが国家による規制産業から、ダイナミックなビジネスへと変身した。そこに企業の国際化、ボーダーレス化が加わり、電話かテレックスを各国の電気通信事業者に頼っていただけの企業のニーズが多様化、複雑化し、これらの企業を囲い込むためにも自国の外へ出る必要が生じた。

こういった動きのリーダーが米国。英、独、仏等のキャリアを巻き込み、米国の3大キャリアが中心となってアライアンスが生まれたのは自然。そのアライアンスが今、崩れそうな危機に瀕している。

BTとMCIの破談。AT&Tを中心としたワールドパートナーの不調。予想された通りの独、仏キャリアの確執が噂されるグローバルワン。という具合に、当初の目論見はどこへやら、アライアンスを維持するだけでも大変な状況。

安泰という言葉はこの国ではなかなか通用しない。守りに入ったら弱そうだが、変革し前に出ていくのは得意中の得意。

3、遅れても平気

NTTが昨年、周囲の声に反し、3つのアライアンスのどことも組みせず、独自で事業を開始しようとしたことが本当の意味でどうなるかはこれからだが、まずはこの路線が間違っていなかったことは確か。前に立ちはだかる壁は限りなく大きいが、このような状況のなか、チャンスはあると言ったら楽観的すぎるか。

電気通信の場合、状況の変化や技術の進展が早くなったことから、現状維持に甘んじていては変化に乗り遅れてしまう。

かつて、フランスの電話は品質が悪いといわれ、改良もなかなかされず、長い間ステップバイステップの交換機を使い、クロスバー交換機化した日本に比べ遅れていたが、一気に電子交換機化して遅れを取り戻したばかりでなく、ICカードを使ったテレホンカードなど最先端の技術、サービスを提供する国となった。

また、東南アジアの国なども電話の普及はまだまだだが、設備は最新、携帯電話の利用は先進国以上といったケースがあちこちに出現している。

重工業の時代にはこうはいかなかったし、電気通信でも重厚長大の設備産業とみなされた時代は同様に新規参入は困難だった。だから、国家事業として国営だったり公社としての営業が主体だったのであるが、今はちがう。

米国では特に顕著。誰でも参入できるビジネスになってしまいそう。フルセットで設備を保有しなくても、知恵と営業力さえあれば、AT&Tと同じサービスを提供することも可能。

逆に言えば、今は平気でも追いつかれてしまう危険は大。規模が大きいから大丈夫とも言えない。確かにネットワーク産業は規模が大きいことがメリットとなるが、それに安住していてはだめ。常に革新をしていかないと乗り遅れる。

かつて、既存の電気通信事業者にとってはタブーだった公専公という言葉。専用線を共同で利用することで安いサービスを提供されたら会社が持たないということだったのが、今は公専公の自由化は時の流れ、自国の市場においては反対していても、相手国ではこの手段で参入。いろいろな方法で規制しようとしても一方にはインターネットの利用を通じ、ハッカーのように新しい方法で参入される。

よく、米国での電気通信事情について、企業の実態について教えてほしいとか言われることがあるが、これはなま物。よくよく新聞や業界紙をフォローしていないと合併や吸収、あるいは新たな会社の出現など動きが早く現状を把握するのはほぼ不可能。

米国の電気通信事業者の数を実感するのがトレードショー。こんなに多くの会社が通信事業をやっているかと感心する。小さな会社が大きな会社と競争するようなビジネスをやっている。展示や説明だけでは規模がわからないくらい。

残念ながら、定点観測的にフォローしていないが、これらの企業の中から数多くの出世物語が期待できそう。次のワールドコムがあるかも知れない。

新規参入にもチャンスあり、遅れても平気ということはそれだけ市場が流動的だということ、既存の電気通信事業者にとっては要注意。海外戦略に傾注するのではなく、自国の市場を守る方向に方針を変える企業があるのも仕方のないこと。

4、いろいろなリストラ

暮れになってAT&Tがカード部門などを売却するというニュースが出ていた。ニュースの扱いはそんなに大きくなかったが、カード部門(ユニバーサルカード)はAT&Tが手がけた新規事業のうち、数少ない成功例とみられていたので、このニュースは意外だった。11月に会長が変ってからの改革が次々と現実のものとなっているようだ。

会社の一部を売却するなどということはあまり日本ではみられない。今回の大型金融倒産の中で部門単位で他社が引き取ったというケースがあったが、通常の範囲でのリストラの中ではここまでのことはない。そういう意味でもAT&Tの売却には結構驚かされた。

売却ということは営業権、資産、社員ともに新しい持ち主のところへ移転すること。実感としては考えにくい。いろいろなスタイルのりすとらがあるということがわかる。

米国では電気通信だけでなく、こういうことは日常茶飯事。だから誰もが平気に受け止める。動きに適応しようとする。むしろ、こういった変化を許容する社会や経済の仕組みを利用して変革を行う。常に変化していくこと、またそれを支援する仕組みを持つことが今のニーズに合っている。

だからといって、このまま米国が一人勝ちするとは思えないが、リストラに対応する力、昔とちがって1年間での変化が大きくなっている時代、しばらくは体力、気力勝負が続きそう。

街の変化に気づくのが楽しみになってくる。